fc2ブログ

絵引と漢字遊び

三重県総合博物館
07 /29 2019
  =嬉しいお知らせです=

渋沢敬三の祖父で、
2024年発行の1万円札の顔になる実業家・渋沢栄一翁が
青年時代に担いだ力石が見つかりました。

長野県上田市教育委員会の方のご尽力です。
詳細は今しばらくお待ちください。

          ーーーーー◇ーーーーー

「字引と似かよった意味で、絵引は作れぬものか」

渋沢敬三の著作を読んでいて、
発想の凄さ、おもしろさにハッとしたのがこの「絵引」です。

渋沢氏はいう。
「絵巻物の中から貴族文化、あるいは武家文化を取り去ると
残るものはその当時の常民生活記録であります」

その生活記録を資料として残すために、
絵巻物の中から資料となりうる画面をチェックして、
その部分のみを画家に模写してもらい、これに題名と部分名を加え、
解説をつけて、1000枚に及ぶ絵図に仕上げていったそうです。

こちらは「一遍聖絵」に出てくる女性の旅の様子です。

img016_2019072805232638c.jpg
「日本常民生活絵引」よりお借りしました。

女性は市女笠(いちめがさ)をかぶり、(うちぎ)を着ています。
この市女笠に布を垂らして顔を見せないように工夫したものもあります。

袿を腰のあたりでしぼった形が壺のようにみえるところから、
これを「壺装束」といいます。

足ごしらえは脛巾(はばき=脚絆)と草履で、ふところに赤ん坊を入れています。
女の旅だけでも大変なのに、赤ん坊連れとは驚きです。
曲げ物の桶を担いだ男は従者です。

言葉だけの資料ではなかなか残らない。
また残ってもよくわからないいろいろの動作が、絵で見るとよくわかる」
と渋沢氏が言った通り、子連れの旅の様子が一目瞭然です。

下の絵は運搬の様子です。

なぜわざわざ裸の肩で担いでいるのかについて、
参考文献として使わせていただいた「絵引」では不明としていましたが、
たぶん、こうだと思います。

「東海力石の会」大江誉志氏からお聞きしたのですが、
「力石を担ぐとき、服を着てやると布でずれて持ちにくい。
素肌でやると石がピッタリ肌に吸い付いて落ちにくくなる」と。

それと同じで、
素肌の方が棒が滑りにくいからだと思うのですが、どうでしょうか。

img015_201907280550274d5.jpg
「日本常民生活絵引」「天狗草子」よりお借りしました。

さて、運搬方法には、
担ぐ、背負う、引っぱる、頭に乗せる、牛馬を使うなど様々あります。

この絵の人は天秤棒を使っています。
この天秤棒のことを「(おうご)」といいます。

木偏に力と書いて「朸(おうご)」。
木製の棒に力を加えて担ぐわけですから、理にかなっています。

力石研究の第一人者の高島先生もこうした漢字に注目しました。
先生が興味を持ち、著書で紹介した漢字をここに書き出してみます。

を発揮するのが
ないと劣る
労働で支払うのが主税(ちから)
いものにが加わると動く

なるほどなあと感心しつつ、次のこれでつまづきました。

●重いを加えると勇ましい

鐘に力で勇ましいって、意味がわかりません。
そこで師匠に問い合わせました。

答えは以下の通りです。

勇の文字の力の上は(よう)。
つまりこの文字はでできています。
で、この甬って何かというと、
甬鐘(ようしょう)という柄のついたのこと。

これが甬鐘(ようしょう)です。
ようしょう

この重い鐘に力を加えるには非常な気力がいる。
その気力を出す様子が猛々しく勇ましい
なので、「重い鐘に力を加えると勇ましい」になるとのことでした。

ちなみに「力」という文字は「力強い腕」を意味するとか。

私はまた、「マ」「男」だからマオトコだ、なんて思っちゃって。
どこまでも不肖の弟子で、師匠、すみません。

で、ついでながら、
を表わすサンズイをつけると「湧・涌」(わく)になります。
勇ましく湧き出る水ってわけです。

私も真面目に考えてみました。
力をたくさん加えたらどうなるか。

●一つの仕事に2人以上の力を合わせると協力のになる
●しかし協と同じ3つの力でも、
 月(肉)を切るのは脅しになってしまいます。
 
力も使いようで良くも悪くもなるってことなんですね。
漢字って実に味わい深い!

で、恐れながら、
わたくしメから三重県総合博物館さまへの提案です。

もしもいつか「力石の企画展」をやっていただけるなら、
ぜひ、力石にまつわる絵引と力の漢字遊びもその中へ入れてくださいね。

とまあ、
たとえ見果てぬ夢であっても、「いつでも夢を」の世代ですから。


力石に関する「絵引」は次回ご紹介いたします。


※参考文献・画像提供/「新版絵巻物による日本常民生活絵引」第一巻
               澁澤敬三・神奈川大学日本常民文化研究所編
               平凡社 1990
               /「新版絵巻物による日本常民生活絵引」第三巻
                編等同上
※参考文献/「澁澤敬三著作集 第3巻」平凡社 1992
        /「力石ちからいし」高島愼助 岩田書院 2011

スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

No title

暑中お見舞申し上げいたします。
寝苦しい夜をお腹を冷やさないように布団をかけてお休みくださいね^☆

No title

雨宮さん、おはようございます。

絵引き、本当こういうの重要ですよね。
以前の記事の柳田のなんか権威主義的な
発言は、歴史ってなにという根本だと思いますが
この手の変遷も文化や技術や生産性とか
いろんなものが見えてくるもんだと思うんですけどね。

今回は勇の字のいろいろ、有難うございました。
ワタクシ、本名を勇一と名付けられていますが好きではない文字なのでパソコン上ではyorickなどと滅多にない文字を使っておりました。

No title

荒野鷹虎さま、暑中お見舞い申し上げます。

仰せの通りにいたします。
エアコンつけっぱなしで寝て、夜中に咽喉が乾いて何度も水を飲むのもよくないですね。
荒野様にちなんで私もこんな名前を付けて見たくなりました。
野原羊(ひつじ)子

おはようございます

渋沢という人は経済人でもあったし、また祖父の栄一の富の分配の精神を受け継いでいますから、今のお金で100億円くらい私財を投げ出して多方面に援助したそうです。

静岡にいた寝たきりの青年の方言の研究を助け、南方熊楠の著作を出し、離島対策に奔走。戦後いち早く沖縄に入ったのもこの人。校舎が焼けてしまった沖縄の子供たちのために全国から寄付を集めて援助した。まだ米軍統治の沖縄へ立ち寄ったとき、出迎えた子供たちが隠し持っていた日の丸の小旗をさっと出して歓迎したそうです。

今はなんでも金、金で、金持ちはより金儲けに奔走していて心が貧しくなったと思います。

おはようございます

ヨリックさんは勇一さんでしたか。

勇は気力のある人。恐れず困難に立ち向かっていく人。そしてこの甬鐘は中国古来の青銅製楽器だそうですから、音楽の人、ヨリックさんにぴったりです。

有難いお言葉

姫サマから音楽好きのヨリックにピッタリと有難いお言葉を戴きまして感謝です。
ところで姫サマは文字遊びなどお好きでしょうか?
以前「ニコリ」という雑誌に載っていた超難読漢字での「尻取迷路」だとか、春の頭にて読み下したる迷路などの手持ちがあります。もしお好みならばお送りいたしましょう。例えばこんな具合。縦横10×10の枡目に100個の超難読漢字が詰まっていて、尻取りで読み進めて行くのであります。
岩魚→蛞蝓→十姉妹→鶫→水馬→始祖鳥…とか獏→水母→蚰蜒…、鶺鴒→鼬→蝶→鶉→羊駝→蝮→獅子→白魚→鴛鴦→栗鼠→雀→目鯒…といった具合。スタートは猫でエンドは犬なんですが途中が大変!

No title

ヨリックさま、おはようございます。

「尻取迷路」、漢字が読めない! ものすごく難しい漢字ばかりですね。でも面白そうだから頂戴します。

漢字尻取迷路

ヨリックです。サンプルをお送りする支度をしております。今日中には出来るでしょう。
お送りする先の住所、お名前を教えて戴けませんでしょうか。
ブログでは誰でも見ることが出来るので、ワタクシのメール宛にお送り戴ければ幸です。

No title

あの渋沢栄一氏が力石を担いでいたって?
実家は武州血洗島村(スゲ~村名、埼玉県深谷市)の名主。農業や藍玉も扱っていたから従業員も相当いただろうから、そういう機会もあっただろう。
いずれにしても明治・大正期の大実業家であり財界の指導者が、若い頃力石を担いでいたとは、すこぶる愉快!

ビッグニュースでしょ!

血洗島、一度聞いたら忘れられませんね。栄一翁もいろんなところで地名の由来を聞かれたそうです。深谷市のホームページに載っております。

今まで上田市では力石が一つも見つからなかったんです。それがなんと栄一翁の担いだ石が見つかったんですから、もう私は愉快を通り越して頭クラクラ。上田市教育委員会の方が半月がかりで突き止めてくださったんです。

ブログにも書きますが、これを機に深谷市と上田市でも「大騒ぎ」してくださると嬉しいのですが(笑)

奇跡!

渋沢栄一氏が担いだ力石が見つかった。
力石を知らない人にとっては???でしょうが、力石を聞きかじった者としては、こんなケースは滅多にない! 否、ない! 奇跡!

一万円札の発行を控えた深谷市にとっては、またとない異色の新たなPRポイントになるはずだし、活用すべし!

上田市も渋沢栄一氏が担いだ力石が現実にあった、となれば、これまた一万円札を絡めて‟町興し”の一助として活用すべし!
何たって、信州上田の神畑で担いだんだから。(7/14ブログ・「力石を担いだ栄一翁」参照)

このブログを「両市の関係者」は見て、姫の言うように”大騒ぎする”ことを望む。 教育委員会さん、頑張って!

ホント、奇跡です

見よ、岩をも通すこの執念!

といいたいところですが、すべて上田市教委の方の執念の賜物です。

雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞