やんちょい

終戦後間もなく平原氏は、
永雄節郎という工学博士が書いた本と出会います。

それは全ページローマ字で書かれた「NIYAKU NO KIKAI」という
荷役に関する本だった。ローマ字で書かれているばかりでなく、
ベルトコンベアを「はこびおび」、つまり「運び帯」というふうに、
大和言葉で表現する不思議な本だった。

「はこびおび」を現場では「天狗取り」といった。
この荷役の手法を知って以来、平原氏は「天狗取り」に病みつきになり、
約40年間、その手法を追いかけます。

こちらは「天狗取り荷役」による石炭積みの光景です。
従事していたのは主に女性たちだったそうです。

img002.jpg

明治のころは船を動かす燃料は石炭だった。
軍船が大挙して海を渡っていく日露戦争の時代。
いちいち船足を止めていたら戦局に響きます。

そこで荷役業者が考え付いたのが、
艀(はしけ)に石炭を積んで本船へ行き燃料を補給する方法だった。

今でいう「海上給油」みたいなものでしょうか。

本船の舷側に、ひな壇のように板子の棚を艀(はしけ)まで吊り、
そこへ上下に並べた人の手で石炭を順送りして本船に積み込む、
まさに「人間ベルトコンベア」そのものだった。

「天狗取り」は「手繰り取り」が訛った言葉という説も。

このような人海戦術で、6時間半の間に2300トンもの石炭を積むという
迅速かつ正確なこの荷役手法は世界を驚かせ、
昭和7年には、ロンドンの新聞に写真入りで紹介されたという。

石炭といえば、私はカナダ・バンクーバー島で、
日本人炭坑夫が働いていた炭坑遺跡博物館を見に行ったことがあります。

img004_201805160827546f4.jpg

白人の抗夫は人間扱いでそれ以外は動物並み、
人種によって賃金も持ち場も違ったという待遇に、姉の白人の夫は憤慨し、
姉は、展示品の着飾った日本人一家の写真を見て、
「日本の親戚に送ったんでしょう。精一杯見栄張って」と涙ぐんだ。

次の写真は、日本の炭坑でスラ曳きをする婦人と子供ですが、
カナダにもこれと似た写真がありました。

博物館の説明にはこうありました。
日本人は小さいので狭い坑道での石炭掘りに適していた」

img005.jpg
田川市立図書館提供

残酷な写真ですが、目を逸らせてはいけないと思います。
こういう時代があったことを忘れてはいけないと思います。

姉夫婦や友人たちと別れてカナダ本土へ帰ったら、
日本人会のお年寄りを招待してパーティーを開くのだという。
いきなり私もフラダンスです。ありあわせの服を着て厚化粧して。

img004 (2)

フラダンスの次に踊ったのが炭坑節
日本人のお年寄りが知っているものを、との思いから選び、
レコード代わりにみんなで歌いながら、

♪月がー出た出たァ~、月がァ出たァ

と踊り出したら、招待席にいたご老人が突然、号泣。
もう「サノ、ヨイヨイ」どころではない。
慌てて駆けつけると、嗚咽しながら言うには、
「自分は今も日本語しか話せない。
今日、思いがけず炭坑節を聞いて、もう懐かしくて嬉しくて」と。

日本でもカナダでも炭坑夫だったそうです。

話を戻します。

三井、三池という国内最大の炭坑があった北九州で始まり、
昭和30年代まで続いた天狗取り荷役。
そのルーツは島原半島の口之津港と聞いて平原氏、早速出掛けます。

ここでは「やんちょい荷役」といっていたそうです。

そのやんちょい荷役に14歳から従事したおばあちゃんを昭和56年に訪ねます。
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平原氏と当時88歳の竹ハルおばあちゃん。

竹ハルさんは与論島出身。
明治31年の台風で与論島、沖永良部島、徳之島などの南西諸島が、
壊滅的被害を受けたとき、労働力不足の口之津に集団移住してきた。

長屋の6畳一間に家族が寝起き。常食はカライモ。
徹夜して雇い主から握り飯二つをもらうのが一番の楽しみだった。

島から来た人たちは一番波の荒い場所に行かされた。

「内地の人は私らを軽蔑するものですから、内地の人を班長に雇うとりました。
そうすると軽蔑されまっせん。でもあんまり軽蔑すると海へ投げよりました。
内地の人は泳げんでしょ。力では負けませんでした」

やんちょいはみんなで必死にがんばるための与論言葉の掛け声だった。

       やんちょい さらさら 
     やんちょい さらさら


平原氏は九州・佐賀県の生まれで、九州帝大(現・九州大学)ご出身。
その故郷で得たものをこんなふうに語っています。

「天狗取りとは、貧乏と封建的遺風と人口過多の中、
クレーンもコンベアも何一つ持っていなかった日本人が、
荷役近代化への突破口として、人間そのものを一種の機械にしてしまった
体当たり戦法の一つであった」


※参考文献・画像提供/「物流史談ー物流の歴史に学ぶ人間の知恵」
               平原直 発行者・間野勉 編集・菊田一郎
               流通研究社 2000


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姫の踊る姿

折々にちから姫サマのお姿を拝見出来て、ヨリックはとても愉しゅう御座います。
この度はフラの踊。
♪素敵ですよぉ~♪

嬉しゅうございます!

もうね、過ぎし日を振り返るばかり。
いやなことやああすればよかったとか、あのとき息子たちに申し訳ないことをしたなんてことばかりが去来します。が、それでは落ち込むばかりなので、スパッと忘れて楽しかったことばかりを思い出すようにしています。

フラダンスなんてあのときが初めて。
手をヒラヒラさせてなんとか取り繕っておりました。
プロフィール

雨宮清子(ちから姫)

Author:雨宮清子(ちから姫)
昔の若者たちのスポーツ「石上げ」に使われた「力石(ちからいし)」の歴史・民俗を調査研究しています。今、「力石からバーベルへの道」を書いています。

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