関東大震災・母の温もり

今から95年前の大正12年(1923)9月1日、
相模湾北西部を震源とする大地震が起きた。

関東大震災です。

被害は関東一円と山梨・静岡に及び、東京は廃墟と化した。
家屋の被害57万戸、死者行方不明者は14万人。

もうン十年も前になりますが、
私は見知らぬ方から突然、お手紙をいただいたことがあります。
静岡市内の老人ホームに入居のおじいさんでした。

父親と一緒に山奥の村から村へ行商をして歩いたという方で、
新聞に載った「冒険記事」(私の登山記事)を見て、
遠く南アルプスを見ながら峠越えした日々を思い出したとのこと。

そのとき送っていただいた伝説の花、「京丸牡丹」(アカヤシオ)です。
この花が咲く岩岳山京丸山は天竜川支流の山塊です。
おじいさんにとって大切な写真だったはずなのに3枚もくださった。

img077.jpg

「大正3年、小学校を卒業してすぐ行商を始めました。
父と一緒に汽車で袋井へ。そこから鉄道馬車で森町へ。
堀之内の商人宿に泊まって翌日は秋葉神社へお参り」

おじいさんは記憶力抜群で、12歳のとき歩いた道順をすべて書いてきました。

秋葉神社から気田(けた)ー居寄(いより)ー川上小俣(こまた)、
この小俣から京丸牡丹が咲く京丸山を一望したそうです。

その小俣から原山(わらせま) ー久保尾と歩き、
今度は大井川沿いの梅島から上長尾と強行軍だった。
「父は道々山の話や伝説を話してくれて、がんばる私を褒めてくれました」

「半年後、13歳で独立。魚屋を始めました。
天秤棒を担ぎ鰹4本(8貫目ぐらい)を売って、一日2円ぐらいの利益でした。
2円売り上げたとはたいしたもんだと褒められた。
夏にはポーラ化粧品を背負って山奥の村々を歩いた」

手紙には少年時代に天秤棒を担ぎつつ仰ぎ見た
南アルプス前衛の山々の名が淡々と綴られていた。

遠州(静岡県西部)の山々です。不動岳山行の折りに写したもの。
おじいさんはこんな風景を目にしたのかもしれません。

img079_2018020417493290d.jpg

新聞記事に書かれていた私の本を買いに町へ行ったら、
まだなかったので1週間待って、やっと手に入れたとのこと。

「自分も昔のように自由に山を歩きたいけど、年を取ってしまった。
どうぞ、大自然に反則なさらず、お山を愛してください」と、
手紙の末尾に必ず書いてあった。

下の写真は同じ遠州奥地の山、丸盆岳を経て黒法師岳へ行く途中です。
若い山仲間に誘われての山行でした。左が私。
夜はみぞれになり、テントが強風にあおられて眠れない一夜となりました。

img078_20180204175454704.jpg

17歳のとき、母親が自分を仏間に座らせて、
10円やるから他人さまのご飯を食べて修行してきなさい、と。
それで実家がある金谷から大井川沿いの小長井梅地を通り、
野宿しながら井川田代を経て山梨県に入り東京上野へ行った」

「それから西郷さんの銅像を見て、片道6銭の市電で花やしきへ行きました」

「落ち着き先も決まらず難儀しました。
なんとか落ち着いた矢先、関東大震災に遭遇。
ちょうど東京湾で友人と水泳中で、
深川の木場から流れてきた材木につかまり、一夜を明かしました。
友人は上陸して本所の被服廠まで逃げ、行方不明になった」

「自分は翌日、千葉の漁師に救われ、1か月後、芝浦桟橋から軍艦で
静岡の清水港へ。そこから蓋のない貨車で実家へ帰ったら、
母に抱きつかれまして、母の愛の温もりをヒシと感じました」」

大震災の被災者たちです。
このとき「朝鮮人暴動」のデマが流され、多くの朝鮮・中国人が殺され、
騒ぎに乗じて無政府主義者の大杉栄らが憲兵に殺された。
ちなみに大杉栄の墓は静岡市の霊園にあります。

img080_20180204175942d5d.jpg

おじいさんはたくさん手紙をくださった。
「小学校しか出ていないので」と言いつつも達筆で、
句などもたくさん送ってくださった。その一つ。

   吹き溜まり枯葉同士の敬老日

私もたくさん返事を書いた。
「あなたさまからいただいたお手紙は繰り返し読んでいます」とのこと。

「テレビに出ます」と連絡したら、寮母さんがひときわ明るい声で、
「耳が遠いので伝えます。ありがとうございます。尋ねてくる人がいないので」と。

それからすぐ手紙が届いた。

「テレビはじっくり拝見いたしました。
一度お目もじしたいと思いつつ、心に封印しております。
ご縁あっての文通でございます。
いつまでも変わりませぬ御心情でありますことを祈念しつつ」

南アルプスのライチョウです。
トサカを赤くしたオス(左)がメスに求婚しているところです。

img081_201802041805271bf.jpg

私はとうとうおじいさんをお訪ねしなかった。
でもいただいたお手紙はなぜか手放せなかった。

こういう昔話、私は好きなんです。
決して歴史の表には出てこないささやかな個人史ですが、
まぎれもなくその土地その時代に生きた人の生の証言だと思うから。

封筒には「正・6匁4分…約22g」や、「弦月~2日」とか
「7:20投函」という赤い文字が書かれていた。

なんとなく微笑ましいその小さな文字には、
おじいさんが歩いてこられた人生が凝縮しているような、
そんな気がしているのです。


次回は神田川徳蔵の縁者Eさんが送ってくださった震災の手記です。

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

雌雄のライチョウ

いい写真ですねぇ。ワタクシも何度か山で雷鳥サンにはお会いしているのだが、いつも相手をさがしてウロウロしている独身者ばかり。

大雪

金澤・福井で大雪ですねぇ。
こんな時こそ金澤ではオイシイものが食べられますよ。
雪のたくさんあるうちに行ってご覧なさい。兼六園もまるで墨絵のよう。
ピカピカしている静岡とは全く違った風景と、素晴らしくおいしい食べ物と・・・
これが同じ日本か!!!と思われること必定。
たくさん食べてお帰りになりましたらご感想をどうぞ。

雪、ちょっとビビってます

友人はいろいろ企画してくれています。
ただお正月の暴食からの逆流性食道炎がちょっと油断すると怪しくなってきますので、それが心配です。

大雪みたいでひ弱な静岡っ子が大丈夫かと思いますが、恐いもの見たさでワクワクもしているんです。お土産何にしようかなと考えても、地酒も魚もお菓子も金沢には敵わないし、なかなか決まりません。

雷鳥はすぐそばまで行っても全く動じませんでした。鋭い声を挙げて雌の気を引くのに夢中で。恋は盲目?

No title

雨宮さん、おはようございます。

震災の災禍、
写真ではわかるが、どこか遠い感じが
するのですが、
手紙の言葉は、ひしひしと実感します。
今、起こったらどうなるだろうと
読んだ時は思うんですが、
直ぐ日常ではどっかいっちゃうんだろうな..

おはようございます

「遠い感じがする」
本当にそうですよね。
個人的な出来事でも国を揺るがす大災害でも体験者じゃないと。
私も東日本大震災の津波の映像を見て震え上がったけど、時がたてばやっぱり「遠い所の出来事」と思ってしまったり。
それに大災害に遭われた方々は思い出したくもないし、また世間からいろいろ言われるのを恐れて胸の内にしまったままだったりしますしね。

今読んでいる本に「戦争へ行かなかった者ほど勇ましく戦争を賛美する」とありました。なので私はどんなささやかな出来事でも体験者のお話を聞くことを大切にしています。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

読み終わってから、しばしぼーっとしてしまいました。心にしみる話、ありがとうございました。

初めまして

sazanamijiroさま
コメントありがとうございます。

昔の人の言葉づかいはきれいだったなあとつくづく思います。今時の議員さんの汚い言葉を聞いていると特にそう思います。

私が育ったのは本当に田舎で、女の子も「オレ」なんていうのでいやでした。でもお母さんたちは野良から帰ってきた泥だらけの姿であっても人に会えば「お寒うございます」「お暑うございます」と丁寧にあいさつをした。

決して懐古的にではなく、昔の人たちの他人に対するあらたまった気持ちや心遣いは今よりもずっとずっと優れていたと思っています。

No title

読みながら、パソコンの画面がにじんできました。
いいお話ですね。

No title

kappaさん、お久しぶりです。

このおじいさんのこと、時々思い出します。
顔も知らないからぼやけたまま。
おじいさんの書いてくるものは子供のときからせいぜい青年時代と両親の事だけでした。私も余計なことは聞かなかった。

手紙に書いてきたその時代がおじいさんにとって一番幸せな時代だったと思います。人はつらい体験をしただけ優しくなれる、そんなふうに思いました。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

雨宮清子(ちから姫)

Author:雨宮清子(ちから姫)
昔の若者たちのスポーツ「石上げ」に使われた「力石(ちからいし)」の歴史・民俗を調査研究しています。今、「力石からバーベルへの道」を書いています。

お願い
このブログに掲載されている 写真・記事等には著作権があります。 無断使用はご遠慮ください。
カレンダー
06 | 2018/07 | 08
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
訪問者数
ブログランキング
ブログランキング
ランキングに参加しています
カテゴリ
月別アーカイブ
最新トラックバック
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR