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「ありましたッ!」

由比の力石
01 /13 2018
「久代ですッ! ありましたッ!」

電話の向こうから柔らかくもとびきり弾んだ声。
私はこの声を何度耳にしたことか。

電話の主は静岡市清水区由比の望月久代さんです。

今から8年前、
由比地区には力石がたくさんあるのではと思った私は、
当時、由比の郷土研究グループの会員で、
会報「結愛」の編集長だった望月良英氏に思い切って電話をかけた。

見ず知らずの私からの電話に戸惑いつつも、
良英氏が即座に名前をあげたのが、郷土史家の久代さんだったのです。

もう何でも突撃。当たって砕けろ。思えばご迷惑もずいぶんおかけしました。

久代さんの新発見第一報の力石がこちらです。
CIMG1192.jpg
静岡市清水区東山寺大門・大門薬師堂

久代さんはご主人と家業のみかん農家を営みながら、
長年、幼稚園の園長先生を務め、
また、静岡市との合併前の旧由比町時代には、
文化財保護審議会の委員として文化財の保護活動に携わった方です。

この大門薬師堂の力石は、私が電話をした前年の平成21年
久代さんはすでに先人が書き残した冊子から見つけていました。

上の写真は境内に埋まっていたものを相撲の土俵上に並べたところです。

平成22年11月、私は師匠の高島先生と薬師堂を再訪。
そのとき、地元の松永宝蔵氏が描いた力比べの絵もいただきました。

平成23年
地区をあげての「力石の重さ当てイベント」が行われました。
一番重いのは135㎏、最軽量は35㎏。ぴったり賞の主婦は米10㎏ゲット。

CIMG0011 (2)

それから3年後の平成26年9月、
地区の人たちの手で力石は新しい居場所を与えられ、永久保存されたのです。

昔の人はこれを担ぎましたが、今はこうしてクレーンのお世話に。
img883 (2)
「東山寺の歴史」(望月久代著)より

法印さんのご祈祷も。

img883 (3)
同上。

平成27年3月、
久代さんはご主人と共に説明板を寄贈

それから間もなく、電話の向うからいつもの優しく弾んだ声。
きれいにできましたから、見にきてくださいッ!」

ありがとう、久代さん! 
早速駆けつけたことは言うまでもありません。

「写真撮ってもいいですか? ブログに載せてもいいですか?」
「うふっ! どうぞッ!」

下の写真は、
薬師堂と隣接する東山神社との入口に保存された力石と久代さんです。
この一帯は古い歴史を持つ地域で、この東山神社も、
かつて存在した東山寺という古刹の鎮守だったそうです。
ちなみにこの東山寺は和銅年間(708~715)創建と伝えられています。

そして私が一番驚いたのは、
今も地区の方たちが当番制で神社に毎朝、お灯明をあげていることです。
365日、一日も欠かしたことがないそうです。
数百年以上、ひょっとしたら千年以上、
この神聖な火を絶やさずにきたなんて、凄いことですよね。

力石保存場所・説明板の右側に東山神社の石段があります。
CIMG2742.jpg

ここ大門薬師堂の力石は、久代さんが初めて見つけた力石で、
その発見から6年の歳月をかけて、熱心に地元の方々を説得。
そして見事に保存されたのです。

あの穏やかなお顔からは想像もできない粘り強さです。

現在、確認されている旧由比町の力石は全部で25個。
そのすべてを久代さんが見つけてくださったのです。

現在は郷土史研究や俳句を創りながら、
観光や美術館ボランティア、更生保護女性会委員を務めるなど
相変わらず多忙な日々を送られています。

気負わず、威張らず、自然体で人とも力石とも郷土とも向き合い、
しかし、その粘り強さで着実に成果をあげていった久代さん。
私にとって貴重な、そしてまたとない素敵な出会いでした。

これも久代さんが見つけた力石です。
CIMG0033 (2)
静岡市清水区由比阿僧・瘤山観音堂

ちょっと寂しい光景ですが、こうして力石の存在を掘り起こしたことで、
昔の青年たちの力比べの歴史が、地元の方々へ確実に伝えられていったと、
私は信じています。


   =朗報です=

前々回お伝えした野田市今上下・八幡神社の「万治石」と、
愛宕神社で動きがありました。
次回、詳細をお伝えします。


<つづく>
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コメント

非公開コメント

No title

望月さんと地元の皆さんの努力は尊いものです。
姫の応援もあって今に繫がっているのですね。

このように立派に保存されれば、後世に伝わっていきます。
日本文化は庶民の楽しみや努力が一番ですね。

こんばんは

本当にいろんな方々に助けられています。
力石の調査や保存活動は共同作業だと思っています。

この大門薬師堂の力石、改めて見たらなんだか恐竜の卵が並んでいるみたいですね。最初にお見せした土俵は石を移動した後、整地されてしまいました。
かつては若者や子供たちで湧き立っていたのでしょうが、少子化で使う人がいなくなったからだそうです。

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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞