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想いあふれて

「お父さんのうちはドロボーをするような家じゃない」
「神主が横領したか?」の記事を見たとき、咽喉の奥から漏れた父のうめき。

他人さまにはなんでもない小さな記事ですが、
父には自分の人生の支えを叩き潰されたように思えたのです。
それにはこんな理由がありました。

父は、私には祖父にあたる人の3番目の妻の子で、
父親が53歳のときに生まれ、わずか14歳でこの父を亡くした人です。
22歳年長の腹違いの兄は19歳のとき、没落した家を捨てて上京し、
師範学校を経て教師になった。
父が生まれたのはこの3年後のことだった。

その人が東京から自分の父親へ出した手紙が今、私の手元にある。

「実母の早世に起因すると言えども、
我が家の財政の基礎を固めずして後妻を娶りしは、
我ら兄弟に対してその精神を蹂躙するものなり。
もはや家運傾くだけ傾け、破るるだけ破れろ、はや我が理性も飛び散ったり。

これだけは告げておく。
我が母さえの血を引く弟妹のみ面倒見るが、
継母と異母子弟は将来とも我らとは一切関係なし。
母上や祖母様の如き教養ある婦人ならいざ知らず」

長兄が去った後、
病身の老いた父、虚弱な腹違いの兄や姉、同母の姉や妹を、
20数年、父は母親と共に面倒を見てきたという。
父の青年時代の日記に、キリスト教へ入信したことが書かれていた。
神主の子供がそこまでするなんて、よほどつらかったのだろう。

しかし精米所の小僧をしながら献金を続けたものの、
キリスト教には救われなかったのか、すぐ脱会している。
そんな父の唯一の楽しみはバイオリンで、
夜中の田舎道をバイオリンを弾いて村を一周するのが日課だったという。

姉の婚約がととのい、照れながらバイオリンを披露した父。
img038 (2)

少し茶目っ気があったのか、茶娘に女装した写真が数葉残っている。
楚々とした美人に写っていた。

28歳でようやく結婚。
しかしそんな折り、東京から定年になった兄が故郷の家に戻ってきたため、
父は家を追われ、母親と新妻を伴い、ツテを頼ってさらに田舎へ転居した。

「継母と異母子弟は我らと一切関係がない」とまで言い切った伯父だったが、
いつのころからか、電車と徒歩で1時間もかかる我が家へよくやってきた。
まだ幼かった私が見た伯父は、母が作った綿入れ半天にくるまって
掘りごたつにすっぽり入り、大好きな猫を3匹も重そうに膝に乗せて、
ニコニコ笑っている好々爺だった。

父はどんなときも弱音を吐かなかった。
どんな仕打ちをもそれは自分の宿命だとして、ただ黙々と奉仕していた。
そしてこの「ひどい」兄さんを尊敬すらしていた。

そういうヘコヘコした優柔不断な父を、勝気な母はいつも非難した。
「この人は外では旧家のぼっちゃんで、家の中では下男だった」

事実、父親の葬儀には亡父の部屋に座らせてもらえず、
その日の写真の父は、
上は背広、下は長靴という出で立ちで下男たちの中にいた。

子供のころ、家計を助けようと村の子らと鉄屑拾いをしたら、
父親に「家名を汚した」とひどく叱られ、その晩家出。
村中総出で、金や太鼓で探したら農機具小屋に隠れていたという。

たぶんこれが、父の生涯唯一の反抗・自己主張だったと思う。

そんな父の5人の子供の中で、
父と二人で過ごしたことがあるのは、たぶん私だけではないだろうか。

近所のおばさんたちから、
「あんたのお母さんは上の姉さんたちばかり可愛がって。
あんたはまるでシンデレラみたいな子だね」と言われていた私。

人生の終盤を迎えた今になって、やっと私は気が付いた。

父が幼い私を隣り町の祭りに、電車ではなく山越えで連れ出したのも、
間もなく嫁ぐ私を、生家の墓参りに連れ出したのも、
父はこの末娘の不憫な状況と、
かつての自分の劣悪な境遇とを重ねあわせていたからかもしれない、と。

父の背中を仰ぎ見つつ、山の湧水を飲み、おにぎりを食べ、
隆起した崖に海の貝殻を見つけながら、ようよう峠に立った時、
テンツクテンと遠く近く風に乗って聞こえてきた祭り太鼓。

二人で出かけた生家の墓所では、丸い小さな石を指差して、
「これは捨て子の墓。屋敷の門前にはよく捨て子があってね、
でもほとんど育たなくて死んでしまったんだ」と言った父。

父のそんな昔話を聞きながら、
私は傾きかけたおびただしい墓石の年号を可能な限り書きとめた。
帰宅後、年代順に並べたら、こうなった。
「安和、承久、文永、弘安、文禄、元和、宝永、明和、文化、文久」

「安和」って平安時代じゃないの。絶対、あり得ない! 
石塔婆が建てられるようになったのは、もっと後だし。
いつかきちんと、と思っているうちに伯父の子孫に改葬・移転されてしまった。

さて、出生のときから不遇な人生を決められていたような父だったが、
その父が家庭内の差別に怒りもせず、苦労も厭わず奉仕を貫いたのは、
「自分の中には兄たちと同じこの家の血が流れている」という、
ただそれだけのことであったと私は思う。

曽我兄弟と応神天皇の像
img354.jpgimg945 (2)img353 (2)
曽我八幡宮蔵

たぶん郷土史家は思っただろう。
「だってドロボーをしたらしいという、そういう文書があるんだよ。
仕方がないじゃないか」と。

しかしそれは、父が唯一のよりどころとして生きてきた
「家の誇り」を汚され、否定された瞬間になってしまったのです。

その本が出た当時、今から42年も前になりますが、
私はいたたまれず、著者に手紙を書きました。

「どうしてこちらの話も聞きにきてくださらなかったのですか?」と。
しかし、著者からは何の返事もいただけなかった。

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こんにちは姫様

じっくり拝読いたしました。
歴史小説の梗概を目にしたような感覚はおわかりいただけるでしょうか。

そしてまた、
お父上様の日々を我が幼き頃に重ね合わせ、どこか相通ずるものがあるような、いやもしかすると、感受性にあふれた幼少期の姫様にある日の自分をみたような気がしているのかもしれません。

環境、生い立ちはまったく違えども、なぜか遠き日の記憶を呼び戻してくれるそんな記事でした。

こんばんは

ちい公さま、想いを感じ取っていただき、ありがとうございます。

私の結婚式の後、母から「お父さんは新婦の父のお礼の挨拶があると思って、毎晩練習してきた。それなのにその機会を作らなかった」と怒られました。

ハッとしましたが、父に詫びることもその原稿を記念にもらう考えも浮かばず、とうとうそのまま。父は無学でしたが音楽は好きだったらしく、立派な蓄音機とレコードをたくさん持っていました。

母が私をさして、ことあるごとに言った「何を考えているかわからない気味の悪い子」は、そのまま父へも通じるものだったと思います。

こんばんは

昼に一度読んでいたのですが、再度精読しました。
難しい話というか、お父上・お母上のことは、
姫の心の中に深く残っているのですね。

私事ですが、父も無学で小学校卒でしたが、
丁稚のような身分だったらしく努力したようです。
で、同じようにヴァイオリンが家にあり、
われわれは子供時代に遊んでいました。
蓄音機・レコードの話も懐かしいです。
私は妹達の為に蓄音機の「竹の針」替えたり、
ゼンマイを巻いて童謡等聞かせていました。

家族、今となっては思い出が蘇ってきますね。
姫もいろいろと歴史の中に関わったことも、
これからのブログ、新しい話に期待しています。

こんばんは

one0522さま、コメントありがとうございます。

父の青年時代にはバイオリンが流行ったんでしょうか。
蓄音機、やっぱりありましたか。ゼンマイが緩くなると歌がゆっくりになり、巻き過ぎると早口になったりしましたね。それを面白がったり。

徳蔵さんからずいぶん話がそれてしまいました。
昔を思い出すのはやっぱり年齢のせいかもしれません。

No title

私も前に『謎の守屋神社』で諏訪に物部守屋っておかしくね?って書いたことあります。そのうえあろうことか諏訪ってシバ神がなまったんじゃね?なんてとんでもないことを書いてしまいました。神聖な諏訪の地をけがしてしまったことをここにお詫び申し上げます。
でも、ユダヤ人だかキリスト教のいかがわしい団体がわざわざ外国からきて守屋山を聖書の『モリヤ』だと地元の罪のない人々をその紺碧の瞳で惑わしたことと比べればきっと罪にもなりません。
私もブログで毒づくことがあるけどリアルタイムで反論を予想してのこと、この著者は偉いんでしょうが自分の言葉に責任を持たない卑怯な人間ですね。
ものを書く資格がない御仁とお見受けしました。

No title

sukunahikonaさま、コメントありがとうございます。

いろんな意見があっていいけど、
問い合わせが来たら、やっぱりちゃんと対応すべきだと思います。
この方はこの本から30数年後に出版された本でも「大水が出て流された」のをこの神社と解説してますが、原本では流されたのは近くの寺なんです。

ただ「横領云々」は私の手紙以降は書くことはありませんでした。
次回は思わぬ展開を書きますので、期待していてください。
プロフィール

雨宮清子(ちから姫)

Author:雨宮清子(ちから姫)
昔の若者たちのスポーツ「石上げ」に使われた「力石(ちからいし)」の歴史・民俗を調査研究しています。今、「力石からバーベルへの道」を書いています。

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