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ええ、じれったい!

柴田幸次郎を追う
05 /13 2017
蒔絵師の柴田是真が大石を持ち上げるほどの力持ちと知って、
「幸次郎は是真か」と思ったけれど、やはりこれには無理があった。

だって、もしそうなら、玩具博士の清水晴風は、
朝倉無声に、「150貫目大王石」の話をしたとき、
当然、知り合いだった是真の名前を出したはず。
それを言わなかったのは、是真と幸次郎は無関係ということですよね。

ヤレヤレ、また振り出しに戻ったか。
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でも、めげることなく、
私はますます奮い立ち、おのれの脳天に性能のよい?アンテナをピッと立てた。
そしてポンと探し当てたのが、
「都市民俗の生成」=明石書店 2002=という本。

バッチリでした。再び晴風さんとご対面です。

晴風は大正3年(1913)、「神田の伝説」という随筆を刊行していました。
それが「都市民俗の生成」に復刻収録されていたのです。

この本の中で晴風は、
「明治維新前のわが神田には、俗にいう力持というものが住まって居た」
という書き出しで、代表的な3人の力持ちを紹介していました。

胸が高鳴ります

一人目は皆さまにはすっかりお馴染みの「鬼熊」こと熊治郎。
この人です。

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菊池貴一郎画

豊島屋酒店のタルコロだった熊治郎は、老後、
「豊島町柳原通りの角に鬼熊という居酒屋を出していた」そうで、
江戸研究の三田村鳶魚(えんぎょ)は、
「相撲の話」=復刻 中央公論社 1996=にこう書いています。

「柳原の土手を下りたところ(新し橋近く)に鬼熊横町というのがあって、
私の子供の時分に、縄のれんの店頭に力石がいくつも置いてありました」

鳶魚さんは実際に力石を見ているんですね。
さらに、こんなことも書いています。

「慶応元年の『花長者』(一枚刷)に、

力持 芳治郎 伝七 六十四歳大力鬼熊

があります」

これは錦絵でしょうか。未見です。

これには、「慶応元年(1865)に64歳」とあります。
ということは、生年は1801年で、これは11代将軍家斉の時代で、
十返舎一九が「東海道中膝栗毛」を書いたころにあたります。

また、明治7年(1874)の東京日日新聞に、
「鬼熊71歳の時、古希を祝して大力持会を開催」の記事があります。

年齢にちょっと誤差はありますが、
鬼熊の没年は明治18年(1885)だそうですから、
80歳代まで生きたのは確実です。

力持ちとしては珍しいほどの長寿です。
このことから「鬼熊複数説」も出ていましたが、今は否定されています。

丸い石は鬼熊が持った力石。その後ろに頭だけ見えるのがお墓です。
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東京都世田谷区北烏山・妙壽時

鬼熊の店があった柳原の土手は柴田是真の住まいの対岸で至近距離です。
もともと力には自信があった是真ですから、
鬼熊のところに力石がたくさんあって、人が大勢やってきて力試しをしている、
という評判は耳にしていたはずです。

その中に「熊遊という銘の150貫目の力石があった」ことも、
のちにその石が「浅草公園奥山に移された」ことも、みんな知っていて、
鳶魚を始め、多くの人が本に書き残しています。

その「熊遊」碑です。
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東京都台東区浅草・浅草寺

年齢はまちまちですが、
是真鬼熊も江戸和竿師の中根忠吉清水晴風も、
同時代を、同じ神田川・隅田川界隈で生きていたわけです。

そして、元柳橋にはあの「大王石」がドデンと鎮座していました。
力石に関わっていたみなさんですから、
この石を知らなかったはずはありません。

なのに「幸次郎」は姿を隠したままだ。ええ、じれったい!

さて、晴風が神田の力持ちとして名をあげた二人目は、
こちらもお馴染みの酒問屋内田屋の金蔵です。

「金蔵の持ち石は100貫目以上もあって、
今では深川洲崎の元八幡境内に残っている」

と晴風が「神田の伝説」に書いているように、今でもこの石は、
富岡元八幡宮(洲崎の元八幡)で所在なげに往時を偲んでおります。

「100貫目以上もある」と晴風がいった「樊噲石(はんかいいし)です。
CIMG0746 (4)
東京都江東区南砂・富岡元八幡宮

内田金蔵は墨田区千歳の江島杉山神社に、
93貫目(348・75㎏)の力石を残していますから、
「100貫目以上」は、あながち誇張だとは言い切れません。

「それで、最後の三人目は?」

「ハイハイ。真打は次回のお楽しみということで…」

「何! それはないよ、お前さん。ええ、じれったい」

ウフフ♪

<つづく>
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コメント

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こんにちは

前回と言い今回は江戸が主で懐かしいところが多いです。
何とかそれぞれ回りたいですが、貧乏大暇なんでも、
なかなか腰が重いところです。

暑くなっていやだけど、力石見に行きたくなりますよ。

次が、更に期待して待っていますからね。

戦争ばかりの歴史では、進歩が無いところを、
これこそ江戸庶民の歴史、わくわくしています。

風邪でダウン

one0522さま
コメントありがとうございます。

風邪でダウンしています。
昨日の午後、急に寒気と鼻水と咽喉の痛み。
たちまちティッシュの山。今日一日、眠りこけました。

雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞