FC2ブログ

「破邪顕正は人間界の常道である」

ものすごい面白い本と出会いました。
「維新正観」

著者は蜷川新。明治6年生まれ。
国際法を学び、政治、外交、赤十字などの
国際会議に列席する任務にあたっていた。

父は大阪城で死亡した将軍家茂の側近
著者は母親から秘事として、
「家茂は茶にを盛られて殺された」と聞かされていたという。

何が面白いかというと、
近親者たちが幕末動乱の中枢にいた当事者であること、
ご自身も慶喜公の実子とパリで同宿するなど、
二次資料に頼る後世の歴史家と違い、圧倒的な臨場感があることです。

img781.jpg

私が目を見張った記述はいくつかありますが、
3つほどあげてみます。

① 西郷隆盛についてです。著者は容赦なくこう断言しています。
「西郷は乱を好み、世を騒がした人たるに止まり、
日本人民に利益した人物では無論ない。
封建武士の典型でもない。政治の改革をした人でもない。
徹頭徹尾、謀反人であった」

「西郷は強盗団を組織して江戸市中で略奪、暗殺を繰り返した。
薩長の大久保木戸岩倉などの反幕府勢力は勤王を口にしながら
詔勅や錦の旗を偽造し世人を欺き、天皇の暗殺を企てた。
尊皇は名目だけであった」

② 坂本龍馬暗殺について。
「暗殺者は新撰組だとか会津の佐々木只三郎だとか
今井信郎
だとかいわれているが、
当時の旅館の女中が暗殺者は鹿児島弁を話していたといっていた」

薩長、特に西郷さんの故郷・薩摩の方々にとっては、
許しがたい発言だと思います。
ちょっと、ハラハラ。

奥医師・桂川甫周の娘、みねさんの夫は佐賀藩士で、
聞き書き「名ごりの夢」によると、
夫の今泉氏は大の徳川嫌いだったので、夫婦げんかはいつも、
「薩長が…」「徳川が…」になったと書いています。

しかしみねさんは病没した夫の墓を、
夫が尊敬していた西郷隆盛の墓地内に建立したのだそうです。

③ 榎本武揚が北海道に新共和国の樹立をはかり、
官軍と戦闘になったとき、その榎本隊にフランス人士官8人もいた。
私はそのことに驚きましたが、もう一つはその8人の中に、
あの「元柳橋」のたもとにあった「大王石」の撮影者がいたのではないか、
という期待を持ちました。(まだ調べてはおりませんが…)。

「維新正観」の著者・蜷川新。昭和27年撮影。80歳。
img782.jpg

むろん、維新の真相などという大それたことは、
私ごときには何もわかりません。
ですが、この「維新正観」に共感を覚えるのは、この著者が
「権力にへつらう人物を最も軽蔑する硬骨漢である」こと。
「官軍に惨殺された小栗上野介を最も優れた人物」として礼賛していること。
「幕府には新政府とは比較にならないほどの高い外交能力があった」
この3点があってのことです。

この本の解説者・礫川全次氏の言を借りれば、こういうことです。
維新政府を担った政治家、外交家には識見や能力の点においても、
モラルの点においても、問題な人物が多かった

著者・蜷川新に叩かれたのは、岩倉具視や西郷隆盛だけではない。
静岡市民になじみの慶喜公にも容赦なくその矛先が向けられています。
内容は本でお読みいただくとして、慶喜さんのお身内にはこんな話も…。

聞き書き「徳川慶喜残照」に、
孫の大河内富士子さんと慶喜さんの臨終に立ち会った叔父さんとの
こんな会話が載っています。

「おやじもいろいろ言いたいことがあったろうに、
何一つ言わずに逝かれたのはお気の毒に思うね」
「でももし本当のことをあれこれおっしゃったら、日本の歴史が変わりましょ

静岡時代の慶喜公は訪問者に対して好みをはっきり持っていました。
アメリカ人はだいたい面会拒絶
牧之原の中条や大草たちには息子の代になっても丁寧に会っています。

乞食になった旧幕臣たちが「おめぐみ」をもらいに訪れるのも断りますが、
見かねた使用人がポケットマネーから与えたりしています。

慶喜さんは明治30年、静岡から東京へ移りましたが、
その翌年、明治天皇とお酒を酌み交わしたそうです。
その折り、天皇からこんな言葉をかけられたという逸話があります。

「今日やっと罪滅ぼしができた
なにしろ慶喜が持っていた天下をとったのだから」

この「維新正観」から私は、
「維新」という言葉は、かつて学校で教わった
「世直し」とか「封建制社会の打破」などといった単純、安直なものではない、
ということと、維新をいろんな角度から読み解き真実を追求することの大切さ、
そして、幕末維新の「邪(まやかし)」は、
決して遠い過去の出来事ではない、ということを教えられました。


<つづく>


※参考文献・画像提供/「維新正観」秘められた日本史・明治篇 蜷川新 昭和27年
         復刻 注記・解説 礫川全次 批評社 2015
※参考文献/聞き書き「名ごりの夢」今泉みね 昭和38年 平凡社
        /聞き書き「徳川慶喜残照」遠藤幸威 朝日新社 1982

コメントの投稿

非公開コメント

No title

痛快!
取り寄せて読みます。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

kappaさま
ぜひお読みください。

この本は昭和27年に出たもので、戦前の悪法・治安維持法が廃止になったため世に出ることができた貴重な本だそうです。
遅らばせながら、長州の下級武士を批判した「明治維新という過ち」もこれから読むところです。

私は司馬遼太郎氏の本は一冊も読んではいませんが、いろんな方が「司馬氏が明治維新を美化したため、誤った歴史を庶民に植え付けた」としていますね。
読んでいないのでなんともいえませんが、でもそこが時代小説の難しさだと思います。

歴史的事実を想像力で肉付けするというのは小説家の真骨頂ですから、作家自身にはなんら責任はありませんが、名文であればあるほど、また作家自身が歴史に通底していればいるほど、庶民はそれがフィクションであることを忘れてしまいますから。

「歴史が好きです」という方にしばしばお会いしますが、よくよく聞いてみるとテレビドラマの「水戸黄門」や時代物だったりします。
私自身はノンフィクションの方が好きなのと、すぐ信じてしまうクセがありますので、歴史小説は読みません。

追伸

訂正。

「通底」→「通暁」

おはようございます

「維新正観」ぜひ読みたいと思います。
紹介された文言、私の考えが正しかったと確信出来ました。

西郷は江戸やら京で、無辜の人々を殺害の指示して、
江戸では放火も指図とか。
そう、中岡・坂本殺しは、薩摩人が正解でしょう。

小栗氏は、坂本藤良著「小栗上野介の生涯」を、
30年以上前に読み、感動したものです。
巷では「勝」が評価され過ぎですが、
この小栗は別格です。
徳川を売らなかった偉人です。

若いころ「司馬私観」の影響で竜馬が最高の人物に祭りあげられ、
おおくの若者(男性)が受売りし、偏よっています。
当時、私も読んで感化された口でした。

昭和30年代は、貸本屋が全盛で、当時は未だ官軍が正義とかで、
高杉・坂本・桂・西郷などが英雄でした。

最近の話では、教科書から「鎖国」がきえます。
私は「明治維新」ではなく「明治革命」だと思っていますし、
クーデターだとも考えています。

最近は、江戸時代が見直されてきていますが、
明治の偏った歴史観が是正されて真実が明るみになれば、
本当の日本の姿が見えるとおもいます。







No title

one0522さま
コメントありがとうございます。

one0522さまが以前おっしゃっていた通りだったんだなあと思いました。
そう思うと裸同然で銅像になっている西郷さんって、
江戸人が敵討ちのつもりで、わざとあんな格好をさせたのかなあなんて思ってしまいました。

龍馬についてはこの本の著者は好意的に書いていますが、私はやはり武器商人グラバーとの関係を重視したいです。
そこに何か暗殺につながるものがあった、と。

薩長の留学生たちはみんなグラバーの世話になり、帰国後は新政府の重職につきましたが、日本はその時点で目に見えない植民地になったのでは、とも思っています。

ふむ

こんにちは。いつもお世話になっております。
この時代を調べるのには、本を漁るよりも先輩方のブログを拝読するのが一番わかりやすく、知りたいことが書かれていると思ってます。

ふむふむ。蜷川新右衛門さんが書いた・・・ちゃうちゃう。つい、一休さんが頭に。

私も歴史小説は、鬼平以外はあまり好きじゃないです。
この本、私も探してみまーす♪

No title

つねまるさま
コメントありがとうございます。

図書館で借りてざっと読み「たまげたアー」と感じ入り、購入しようと思ったのですが、買ったらたぶんつんどくだけになると思い直し、今再び、返却期限を気にしつつ読み直しています。

著者の母親と小栗上野介の妻が姉妹ということで、著者が小栗を褒めるのは当然かと思いますが、それを差し引いてもやっぱり小栗上野介は非常に優れた人物であったと思います。

小栗上野介は写真で見るとなかなか顔立ちの整ったいい男で私好みですが、あばたづらで「じゃんこ面」と呼ばれていたそうです。
で、私は静岡浅間神社の稚児舞に登場する「ずじゃんこ」という黒い面の翁と媼をふと、思い浮かべました。

静岡市では「ずじゃんこ」の名称の由来は不明としていますが、私は「じゃんこ面」から来ているのではと思ったのですが、どんなもんでしょうか。

プロフィール

雨宮清子(ちから姫)

Author:雨宮清子(ちから姫)
昔の若者たちのスポーツ「石上げ」に使われた「力石(ちからいし)」の歴史・民俗を調査研究しています。力石のことを少しでも知っていただけたら嬉しいです。

フリーエリア
お願い
このブログに掲載されている 写真・記事等には著作権があります。 無断使用はご遠慮ください。
カレンダー
09 | 2020/10 | 11
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
最新コメント
訪問者数
ランキングに参加しています
カテゴリ
月別アーカイブ
最新トラックバック
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR