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詩を読むように故郷を語る

由比の力石
03 /21 2016
望月久代さんから新たな力石発見の知らせを受けて、
由比・阿僧(あそう)へ赴いたのは5年前の早春のこと。

「駿河記」(桑原藤泰)に描かれた阿僧です。
由比川を挟んで対岸(右)に見えるのが東山寺の紫山。
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師匠の高島愼助教授は例によってご自宅を深夜に立ち、
途中の温泉施設の駐車場で仮眠。

先生はここの調査の後、関東方面への調査へ出かけるとのことで、
阿僧へは夜が白々明け始めた早朝の出立となった。

久代さんとの待ち合わせ場所は阿僧宇神社
春とはいえ花冷えのする朝です。まだ家々は眠りから覚めやらず…。
その物音一つしない集落の道を久代さんの車がやってきました。

これは今年2月、阿僧在住の郷土史家、
望月良英氏が出版した「阿僧の歴史」です。

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良英氏は本の中で、ふるさとと向き合うきっかけをこう語っています。
「10年ほど前ふと足を運んだ郷土史の講座で、郷土史家の望月源蔵先生が、
故郷を思う心をまるで詩のように美しく語るその姿に感動し啓発された」

その後、正法寺のご住職、手島英真氏の指導の下、
仲間と共に郷土史研究に没頭。著作にも精力的に取り組み、
「日蓮宗聖典 日蓮聖人日訓遺文集」「ふるさとのことば「ゆい」方言辞典」
「ふるさと・ゆい 郷土史・文化財 源蔵先生講義録」などを発行します。

「源蔵先生」です。
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「由比町の建物を見ても仏像や神社を見ても、外観も内容も立派。
お金があったからいいものができたわけではない。
金があればとかく無駄遣いが多く、


文化には吝嗇(りんしょく=ケチになるものですが、
由比の人たちはわずかなお金を持ち寄りコツコツためて、
自分たちの納得のいくものを心でつくり、残してくれたのです」

「源蔵先生講義録・源蔵氏の序文」より

良英氏の本には、調査研究は緻密にトコトンやらねば気が済まない
という姿勢が貫かれています。
元エンジニアらしいといったら怒られるかな?

その良英氏の言葉です。
「郷土史は俯瞰的・編年的な日本史に比べ、石垣の間詰石(まづめいし)
みたいなものです。
しかしこの小さな石ころがなければ石垣は成り立ちません」

「郷土史はその時々の現実を生きた人々が流した汗の雫であり、
その時は空気のようで、
記録に残す必要さえ感じなかったその日その日の伝承です。
そういう地域の人々に光を当て、人々の思いや情念の襞に触れるとき、
知り得た知識の一部でも後世に伝えるべく
「阿僧の歴史」を書いてしまいました」


久代さんと待ち合わせた阿僧宇神社です。
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静岡市清水区由比阿僧  「阿僧の歴史」(望月良英)より

この「阿僧」と書く地名は、全国に一つしかないそうです。
地名の由来には、
「九州阿蘇山の阿蘇説」、麻の栽培地の「麻生」などがあるようですが、
良英氏は「崖、崩壊地を控えた場所「アズ」が訛ってアソウになった?」
との考えを示しています。

なにはともあれ、建久二年(1191)の改築の棟札があるそうですから、
古いお社であることは間違いありません。

しかし古いのはそればかりではないんですね。
この神社はなんと縄文遺跡の上に建てられていたのです。

今から83年前の昭和8年9月のこと。

猛烈な台風の襲来で神社の大木が根こそぎ倒された。
近くの久保田憲次君が駆けつけてみると、
大木の根元に大量の石器が顔をのぞかせていた。
久保田君は当時15歳だった望月源蔵少年に相談。
二人で担任教師に石器を見せた。

これが「阿僧遺跡」発見の発端だったのです。
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「阿僧の歴史」より

この遺跡は縄文前期から中期の集落遺跡で、
「由比町の最古の人が住んだ場所」(静岡大学・市原寿文教授)だとか。

良英氏が敬愛してやまない望月源蔵先生の本業は人形づくり
平成20年に90歳で亡くなるまで、
その審美眼洞察力
故郷への愛情は衰えることなく、
ふるさとの名もない遠い祖先たちとの出会いに精魂を傾けられました。

東山寺・薬師堂の天井裏の版木を見つけた一人が、
この源蔵先生だったそうです。


終生「石垣の間詰石」に徹した源蔵先生、こんな言葉を残しています。

「静岡市と合併しても、由比町には誇るべき独自の文化があります。
自分たちが住んでいるこの土地の歴史に思いを馳せ、
古人の声に耳を傾けて欲しいと思います。
それがこの土地の新しい将来を築くことにつながるからです」


※参考文献・画像提供
/「清水区由比 阿僧の歴史」望月良英編著 私家本 平成28年
/「ふるさと「ゆい」郷土史・文化財 源蔵先生講義録」
 望月一成監修 望月良英編著 私家本 平成22年
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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞