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神奈川県に卯之助を追う

三ノ宮卯之助
06 /28 2015
22歳で江戸力持ちの仲間入りを果たした卯之助は、
その後全国各地へと旅興行に出かけます。

そうした痕跡は、前回お伝えした神奈川県川崎市の
川崎大師平間寺や若宮八幡神社の力石にも見られました。

三ノ宮卯之助の「浅草観音境内」での興行引札です。
img690.jpg
 =神戸商船大学図書館蔵

上智大学の伊東明教授はこの引札を、昭和40年ごろ、
神戸商船大学の岸井守一教授から紹介されたと随想に記しています。

一方、埼玉県越谷市の卯之助研究者・高崎力氏は、
img691.jpg

昭和26年、旧大袋村村長・瀬尾哲太郎氏の案内で、
卯之助の生家にあった「まな板になっていた版木」を目にします。

その瀬尾氏から、
「卯之助の力石が川崎大師や鎌倉八幡宮にある。他にもないか調べてくれ。
卯之助は日本中を回っていたらしい」と言われ、
調査の範囲を地元越谷市から東京下町、神奈川へと広げていきます。

そんなある日、川崎市在住の方から情報がもたらされました。
「綱島の諏訪神社の石段の下に卯之助石が転がっている」

「転がっていた」力石は、平成2年
このように立派に保存処置がなされました。
img687.jpg
 =横浜市港北区綱島東・諏訪神社

卯之助石はなんと4個もありました。

「池谷石 天保二年四月十五日 岩附卯之助 大木戸仙太郎 持之」
65×42×32㎝
「奉納飯田石 天保二年四月十五日 岩附卯之助
大木戸仙太郎 持之」

71×50×32㎝
「さし石 三十二メ 岩附卯之助 
大木戸仙太郎 持之」
61×33×29㎝
「さし石 四十貫 岩附卯之助 飯田氏」74×37×27㎝

これらの石は、江戸時代の南北綱島村の名主、
飯田家池谷家が、
4月15日の諏訪神社の祭礼に卯之助一行を招き、奉納力持ちを開催。
そのとき使われた力石を神社に奉納したものでした。

このとき卯之助、24歳
のちにご上覧力持ちで関脇となる仙太郎と行動を共にしています。

こちらは横浜市都筑区大熊町・杉山神社の卯之助石です。
img688.jpg
79×38×31㎝

「大くま 岩附 卯之助 
大木戸 仙太郎 持之」


上智大学名誉教授の伊東明先生は、
img055 (2)

昭和62年、横浜市緑区の郷土史家・相沢雅雄氏から、
「大熊町の杉山神社の”大くま石”に、岩附卯之助の名前が刻まれている」
との報告を受けます。
それが上の写真の石です。

伊東先生は翌昭和63年の「随想 江戸力持力士 三ノ宮卯之助」の中で、
「岩附」の地名について、こうおっしゃっています。

「ごく最近になって続けて発見された神奈川県下の「岩附 卯之助」の切付のある
三個の力石の「岩附」は、「岩槻」と解釈してよいのだろうか」

三個の力石とは
川崎大師、若宮八幡神社とこの杉山神社の石のことで、
伊東先生は、これらに刻まれた「岩附 卯之助」と、
昭和45年に報告された信州諏訪神社の「武州岩槻 三ノ宮卯之助」を並べて、
「岩附」は「岩槻」と解釈してよいのか、
「卯之助」は同一人物なのかと思いを巡らせ、
確定できる資料の発見を待っていたと思われます。

卯之助はこのころ、やっとその名を知られ始めたということですね。

伊東先生のこうした論文から、
卯之助石の刻名一つでも確実な資料を得てから結論を導き出す、
そういう研究者の真摯な姿勢
垣間見た思いがいたします。

こちらは神奈川県北部を調査中に、高島教授が発見した石です。
img689.jpg
60×34×24㎝ 20貫600(説明板による)
=横浜市都筑区南山田・山田神社

「岩□□ 卯之助さし (裏面)山田村」

DSCF0013 (2)

卯之助石に限らず、こうした庶民の文化遺産は、
郷土史家や地元市民から大学研究者へリレーされ、また再調査を重ねて、
初めて記録され後世に伝えられていくのですね。

こうして長い時間をかけて、多くの人たちから託された力石です。
安易に捨て去ることなくしっかり見守り、
石に沁みこんだ若者たちの物語を、
後の人たちに手渡していきたいものです。

かた~い話が続きました。
ここでちょっとお口直し…。

埼玉在住の研究者氏による路上観察作品「バード」
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路上に白鷺が倒れていると思い近づいてみたら、
なんとビニールのこうもり傘だった。

これは凄い! ホントに白鷺そのものに見えます。

こちらは高島愼助教授の伊勢型紙作品。
17.jpg

な、なまめかしい~!
教授にこんな一面があったとは…。


<つづく>

※参考文献・画像提供
/「三ノ宮卯之助の力石(2)」高島愼助・高崎力 
 四日市大学論集 第17巻1号 2004
※参考文献
/「随想 江戸力持力士 三ノ宮卯之助」伊東明 
 上智大学紀要37巻3号 1988
※画像提供
/四日市大学高島研究室 高島・伊勢型紙作品
/S氏による路上観察物件より「バード」
/神戸商船大学図書館        
/「広報こしがや・お知らせ版・わがまち この人」平成23年11月号
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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞