fc2ブログ

伝吉の石を追う

力石・力士の絵
03 /20 2015
伊豆・大島出身の力持ち、
大嶌傳吉(本名・島田伝吉)の足跡をたどります。

伝吉の名が刻まれた力石は全部で9個。
残念ながら年代を刻した石はありませんので、
各地に残された石から、伝吉の活躍の痕跡をご紹介していきます。

静岡県伊東市の郷土史家、故・木村博氏が書き残した「伊豆の大力伝記」に、
「伝吉は明治初年、三島大社の境内で興行したとき、
清酒四斗樽2個を下駄代わりにはいて歩いた」との記述があります。


かつて力石が展示されていた三島大社・宝物館です。
img583.jpg
昭和10年ごろ =静岡県三島市

木村氏が「伊豆の大力伝記」を書いた1985年当時は、
この宝物館の前に立派な立札と共に力石が置かれていたそうですが、
現在は神社裏の藪の中に打ち捨てられており、
神社関係者はその存在すらご存じありません。


裏の藪に放置されたままの力石。
三島市・三嶋大社 (2)
写真からもまだしっかりと「力石」の刻字が読み取れます。

「奉納 力石 元飯田町 金蔵 彦太郎 福□真□ 直吉」

神社関係者の皆様には、
今一度郷土の庶民のこうした文化的価値を再考していただき、
ぜひ保存を、と切に願っています。

三島大社の当時の説明文によると、
「石は80貫(約300㌔)、
伊豆大島の出身、直吉と申す者が角技の上達を当社に祈願して奉納した」
とあったそうです。

この石には、「飯田町金蔵」「直吉」などの名が刻まれていますが、
これについて木村氏は、
「大島伝吉と大島直吉とを混同したのではないか」としています。


img062 (2)
渡辺崋山が描いた「飯田町金蔵(万屋金蔵)」

ですが、四日市大学の高島愼助教授は、
「飯田町金蔵と併刻されていたのなら、直吉は大島出身の直吉ではなく
飯田町直吉のことではないか」
「金蔵と飯田町直吉の名を併刻した力石は全部で5個。これとは別に
大島村 直吉の刻字石は2個存在する」としています。

つまり同名の「直吉」は別人だということです。


img584.jpg
飯田町金蔵と飯田町直吉の名が併刻された力石 
=観蔵寺(千葉県木更津市)

「五十五貫余 文政癸未冬十月六日此自持 於之内田 子刻之其人誰東都
三有力 芝土橋久太郎 飯田町直吉 萬本店金蔵 彌吉 定七 □右衛門
権蔵 權治郎 文政庚寅七月 武刕岩附 卯之助 江戸□□久蔵」

この石には、力持ちの超有名人が名を連ねています。
610㌔の石を持ち上げた日本一の力持ち「卯之助」の名も見えます。

こちらは大島村 直吉の銘の入った力石
CIMG1024.jpg
石観音堂 =神奈川県川崎市

「八丁堀亀嶋平蔵 本八丁堀一町目 権平 五十八貫余
長五郎 百組 長吉 大嶋村 直吉 伊之助」

こちらの石にも八丁堀平蔵や伊之助など有名力持ちが名を連ねています。


さて、飯田町金蔵(万屋金蔵)ですが、
この人は文化文政期に活躍した江戸を代表する素人力持ちです。
ですから、明治初年の力持ち・伝吉と一緒に興行した可能性は低い。


しかし木村氏によると、
「大正時代、地元の沼上徳兵衛がこの石を持ち上げて境内を歩いた」
とのことですから、石に伝吉の名が刻まれていなかったとしても、
時の総理大臣に贔屓されるほどの伝吉です。


明治初年の三島大社での興行のとき、
江戸の西方大関を張った飯田町金蔵銘の石に挑んだことは、
充分考えられます。


そのころ伝吉は二十歳ぐらいの若者だったと思われます。

「伝吉の石を追う旅」、次回へと続きます。

※追記
埼玉在住の研究者S氏より貴重なご指摘がありました。
「大嶋村 直吉」についてです。

上記の記事中、私は神奈川県川崎市川崎区の石観音堂の力石を、
「伊豆大嶋村出身の直吉」としましたが、S氏によると、
川崎区に「大嶋」という地名があり、この石観音堂に刻まれた銘は、
伊豆大嶋ではなく川崎の大嶋のことではないか、ということです。
 
「川崎にいた力持ちコンビの直吉、伊之助が力技を披露し、
その記念に互いの名を刻して奉納した」


とのご指摘です。重要なことなので、ここにご報告いたします。
そういえば、同じ川崎区の川崎大師平間寺の「虎龍石」も
「大嶋村 直吉 伊之助」ですね。
Sさん、ありがとうございました。


※参考文献
/「静岡の力石」高島愼助・雨宮清子 岩田書院 2011
/「伊豆の大力伝記」木村博 伊豆新聞 1985  
/「石に挑んだ男達」高島愼助 岩田書院 2009
/「神奈川の力石」高島愼助 岩田書院 2004
※画像提供
/「写真集 静岡県の絵はがき」監修・若林淳之 羽衣出版 平成5年
/「江戸名作画帖全集3 文人画 文晁・崋山・椿山」「喜太郎絵本」
 駸々堂出版株式会社 1993
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞