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いつの間にか「傘寿」③

いつの間にか傘寿
09 /14 2023
小学一年生の時、同じクラスの男の子に恋をした。
男の子はとおるくんといった。

授業中もとおるくんを見ていなければどうにかなりそうで、
勉強どころではなかった。

休み時間になると、とおるくんのところへ直行して椅子に座った。
一つの小さな椅子に無理やり二人で座った。

小学1年生の私。サザエさんちのわかめちゃんヘアー。
小1

ただ黙って座っているだけだったが、
密着したとおるくんの体のぬくもりが、ほのかにこちらへ伝わってくる。
それがうれしくてたまらなかった。

評判になったが、全然、気にならなかった。


クラスの子供たちが奇異の目を向けても、眼中になかった。
先生が隣のクラスの担任とヒソヒソしながら私を見ていても、
私は夢の中にどっぷりいたから、何も見えず何も感じなかった。

だがある日、大失敗した。
一日中、とおるくんと密着していたのでトイレに行く暇がない。
トイレへ行くのも惜しんでいたから、おしっこを我慢しすぎた。


慌ててトイレを目指したが、時すでに遅し。
途中でザァーと大洪水をやらかした。

恥ずかしさのあまり、ランドセルもなにもおいてそのまま家へ直行。
そうして私の初恋は大洪水と共に流れ去り、あえなく終わった。


DSCF5626.jpg

それから間もなく、とおるくんはいなくなった。
「お父さんの仕事の都合で遠くへ引っ越した」と、先生が説明した。

「風の又三郎」みたいな消え方だった。

とおるくんとは言葉を交わしたわけではなかった。
一緒に遊んだ記憶もない。

なのに好きでたまらなくなった。ただ一緒にいるだけでよかった。


色白の大きな目をしたクリクリ頭。
模造の金ボタンのついた小学生用の黒い詰襟が似合う少年だった。

ご存命なら私と同じ80歳。

得体のしれない女の子に言い寄られて、さぞ迷惑だったでしょうが、
とおるくんは何も言わず、逃げもせず拒否もしないまま、
私と座り続けてくれた。


小学校のあの硬い四角い小さな木の椅子を見るたびに、
私は思い出すんです。

あの大胆な熱情と腰に伝わったほのかなぬくもりと、そして、大洪水を。

人生で初めて訪れた7歳の恋は、今も強烈に懐かしい。


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コメント

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No title

仄かな甘酸っぱい思い出ですね。

(なぜか初恋は「仄かな甘酸っぱい」と表現?)

年齢を重ねると、なぜあの時、かくも夢中になったか
分からないことがありますが、姫は大胆だったのですね。

指をくわえて遠くから眺めているような、
やわなタイプではなく力石
意思の強い方とお見受けいたしました、が・・・(笑)。

「おもらしに流れたるかな初恋は
八十路に咲いた清きあだ花」

k.miyamotoさんへ

今にして思えば、大胆でした。
でもその大胆さもすべてあの大洪水で流れ去ってしまい、その後は不遇の時代に突入。あのときの先生の、何か汚いものを見るような目つきに犯罪を犯したような気持ちになり、一転、禁欲に方向転換しました。(笑)

そんなはるか昔の恋物語を回想していたら、高校の同窓会開催のハガキが来ました。10年ぶり。あのときも半分以上の方が鬼籍に入られていたから、その減り具合を知るのと、ジジババぶりを見せたり見たりするのが恐怖。一年先輩にカミオカンデの戸塚氏がいましたが、あの方ももういないんですね。それでふと思い立って今、戸塚氏のブログをもとに立花隆氏がまとめた「がんと闘った科学者の記録」を読み始めました。思えば立花氏ももういないんですね。ああ…。

雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞