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謎は深まるばかり

盃状穴
02 /05 2023
広島県呉市の盃状穴を報告した小早川成博氏は、
呉市の歯医者さんです。

大正14年生まれ。当時、広島民俗学会に所属し、芸南盃状穴研究会の
会長をされていたようです。

国分氏が「盃状穴考」で述べていたように、この方は「野の研究者」。

この本の執筆者10人中5人が大学や博物館勤務のいはば専門家で、
あとの5人は歯科医、画家、寺の住職、会社経営者、中学校教師と
別に本職をお持ちの「野の研究者」。

国分先生いうところの「なんら権威意識を持たない研究者」たちです。


さて、「変型盃状穴」に注目した小早川氏、
盃状穴を大きく3つに分類して考察しています。


①典型的盃状穴(通常みられる円形の穴)

②変形盃状穴(円形を呈さないもの)
 これには多角形型盃状穴切込みを持つ型があるとし、
 切込み型に、(つむ)型、木の葉型、切込型を挙げています。

紡型の一例として、萩市・住吉神社の手水鉢を紹介。
紡型
写真は「盃状穴考」よりお借りしました。

③有溝盃状穴(溝状のくぼみ)
 これには側溝型連結溝型をあげています。

この一例として、
前回ご紹介した三浦氏報告の安芸郡・善正寺の手水鉢をあげ、

「典型的盃状穴と紡型盃状穴を浅い溝で結んだ連結溝型盃状穴」
としています。


こちらは神奈川県・石観音堂の石碑台座の盃状穴です。
まるで機械で正確に穿ったような、典型的な盃状穴ですね。
それを溝状の窪みでつなげてあります。


私が名前を付けるとしたら、「溝2連結盃状穴」です。
石観音堂

でもですねぇ、
この「溝」、そう単純に「溝」と片付けてしまえないんですよね。


だって、こーんなのや、
東八幡神社1
埼玉県春日部市粕壁東・東八幡神社

こーんな長いのは、どう言ったらいいんでしょう。
手水鉢の周囲を蛇がぐるりと囲んだように長々と彫ってあります。

しかも四隅には、小早川氏が言うところの「木の葉」に似た
楕円形の穴がある。これはどう見ても意図的ですよね。
大枝香取神社2
春日部市大枝774・大枝香取神社

こちらは、
埼玉県在住で力石をはじめ、故郷の情報を精力的に発信している
へいへいさん撮影の手水鉢です。

通常の「盃状穴」と「溝状の窪み」が、非常にくっきりと穿たれています。
私が名前を付けるとしたら、「陰陽溝穴
(こうけつ)

この長い「溝」を龍(龍蛇)とするならば、「穴」は「玉」(ぎょく)、
水盤部は「鏡」。
「鏡」は神の依り代で「龍」は神獣。

龍は水を司る神で、洪水や干ばつを起こして人間の生殺与奪を握っている。
玉は、月食、日食、潮の干満を操る道具。

とまあ、私の妄想は際限がない。お笑いください。


へいへい氷川川島町
埼玉県比企郡川島町上八ッ林854・氷川神社

そのほかの盃状穴の報告も充実しています。
ぜひ、ご覧ください。


「へいへいのスタジオ2010」

こちらは斎藤氏撮影の手水鉢です。
かたわらに力石がゴロンと転がっています。


これなんかは「紡型」もあれば「木の葉型」単なる切込み状の溝も。
壁面のデコボコも盃状穴でしょうか。
薬王寺2
さいたま市見沼区島町1086・薬王寺

結局、当時も今も結論は出ていません。

確固とした情報を得られなかった小早川氏、
地元の方に聞いたら、こんな返事が返ってきたそうです。

「盃状穴のあるものに対しては、呪咀的な盃状穴があるはずで、
したがって、
人には知れず文献にも記載されないのは当然です」


ここで「呪詛(じゅそ)という言葉が出てきました。

「呪詛=呪(のろ)い」は憎い相手を呪って災いを与えることですが、
同じ漢字の「呪」を「まじない」と読ませるときは、
災いから自分を守るために使うもの。まさに表裏一体。


どちらも神仏の力に頼むのですから、神さま仏さまは切り替えが大変です。

この「呪詛の盃状穴」、私は初めて聞きました。
なんだか「盃状穴」を汚されたような、不快感を覚えます。


国分氏も他の文献にも「人を呪(のろ)う」という解釈は全く出てきませんし、
古今東西、盃状穴は、
再生や子孫繁栄、子供の健康、転じて豊穣の意味で使われてきました。

だから、「呪詛」という解釈はあり得ないと、私は思うのですが…。


※市町村名は当時のもの。
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コメント

非公開コメント

No title

伊勢外宮の亀石にも、「溝2連結盃状穴」がありました。
たまに見つかるというのが、また難解で意味深ですね。

sazanamijiroさんへ

おはようございます。
拝見しました。全く同じですね。
明日、拙ブログに掲載させていただきますので、
ぜひご覧ください。
こういう風習がなんであったか、
明治以降、ぷつんと消えてしまったのが惜しまれます。

雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞