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ポエム2編② …77

田畑修一郎3
11 /20 2022
色を取り戻しに

雲の下に地面がある
雲の上に空がある
そしてわたしは その空の中にいる


空に突き出た岩の上に 私は立っている
悠久の時の中
眼下に広がる雲海の中に 
こどもが作った砂のお山みたいな頭だけの富士山が見える
その左手にうっすらと八ヶ岳が 
そして右手には南アの山々が不確かな影となって連なっている
ああ、わたしは富士山より高く
八ッや南ア連峰よりもはっきりとここにいる


下界を隠した雲よ
意味のない生活のすべてを覆い隠した雲よ
そして同時にわたしを本当のわたしに覚醒させてくれた雲よ


家族がいると足手まといだって あの人が言った
自分の才能は家族に潰されたと あの人は暴れた
そう、だからわたしは小説家になりたいあの人のために
病めるときも健やかなときも
貧しい中でこどもをひとりで育ててきた


だけどあの人はとうとう父親にも夫にも小説家にもなれなかった
酒と女と そして妻をいたぶるだけの生活
風景から色が抜けてモノクロの世界を歩き続けていたわたし
しかし今わたしは 空に突き出た岩の上にいて
富士山より高く 八ッや南ア連峰よりもはっきりとここにいる


去年 この岩峰から飛び下りて死んだ青年がいたという
その人は自分よりもずっと低い富士山を見なかったのだろうか


岩のテッペンで一晩眠ったら
わたしは空から雲へ その下に続く地面へと降りていけるだろう
そのときわたしはきっと見るに違いない
色を取り戻した風景を 
深々と呼吸する地と空と自分自身を


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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞