いつの間にか「傘寿」③
いつの間にか傘寿
小学一年生の時、同じクラスの男の子に恋をした。
男の子はとおるくんといった。
授業中もとおるくんを見ていなければどうにかなりそうで、
勉強どころではなかった。
休み時間になると、とおるくんのところへ直行して椅子に座った。
一つの小さな椅子に無理やり二人で座った。
小学1年生の私。サザエさんちのわかめちゃんヘアー。

ただ黙って座っているだけだったが、
密着したとおるくんの体のぬくもりが、ほのかにこちらへ伝わってくる。
それがうれしくてたまらなかった。
評判になったが、全然、気にならなかった。
クラスの子供たちが奇異の目を向けても、眼中になかった。
先生が隣のクラスの担任とヒソヒソしながら私を見ていても、
私は夢の中にどっぷりいたから、何も見えず何も感じなかった。
だがある日、大失敗した。
一日中、とおるくんと密着していたのでトイレに行く暇がない。
トイレへ行くのも惜しんでいたから、おしっこを我慢しすぎた。
慌ててトイレを目指したが、時すでに遅し。
途中でザァーと大洪水をやらかした。
恥ずかしさのあまり、ランドセルもなにもおいてそのまま家へ直行。
そうして私の初恋は大洪水と共に流れ去り、あえなく終わった。

それから間もなく、とおるくんはいなくなった。
「お父さんの仕事の都合で遠くへ引っ越した」と、先生が説明した。
「風の又三郎」みたいな消え方だった。
とおるくんとは言葉を交わしたわけではなかった。
一緒に遊んだ記憶もない。
なのに好きでたまらなくなった。ただ一緒にいるだけでよかった。
色白の大きな目をしたクリクリ頭。
模造の金ボタンのついた小学生用の黒い詰襟が似合う少年だった。
ご存命なら私と同じ80歳。
得体のしれない女の子に言い寄られて、さぞ迷惑だったでしょうが、
とおるくんは何も言わず、逃げもせず拒否もしないまま、
私と座り続けてくれた。
小学校のあの硬い四角い小さな木の椅子を見るたびに、
私は思い出すんです。
あの大胆な熱情と腰に伝わったほのかなぬくもりと、そして、大洪水を。
人生で初めて訪れた7歳の恋は、今も強烈に懐かしい。

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男の子はとおるくんといった。
授業中もとおるくんを見ていなければどうにかなりそうで、
勉強どころではなかった。
休み時間になると、とおるくんのところへ直行して椅子に座った。
一つの小さな椅子に無理やり二人で座った。
小学1年生の私。サザエさんちのわかめちゃんヘアー。

ただ黙って座っているだけだったが、
密着したとおるくんの体のぬくもりが、ほのかにこちらへ伝わってくる。
それがうれしくてたまらなかった。
評判になったが、全然、気にならなかった。
クラスの子供たちが奇異の目を向けても、眼中になかった。
先生が隣のクラスの担任とヒソヒソしながら私を見ていても、
私は夢の中にどっぷりいたから、何も見えず何も感じなかった。
だがある日、大失敗した。
一日中、とおるくんと密着していたのでトイレに行く暇がない。
トイレへ行くのも惜しんでいたから、おしっこを我慢しすぎた。
慌ててトイレを目指したが、時すでに遅し。
途中でザァーと大洪水をやらかした。
恥ずかしさのあまり、ランドセルもなにもおいてそのまま家へ直行。
そうして私の初恋は大洪水と共に流れ去り、あえなく終わった。

それから間もなく、とおるくんはいなくなった。
「お父さんの仕事の都合で遠くへ引っ越した」と、先生が説明した。
「風の又三郎」みたいな消え方だった。
とおるくんとは言葉を交わしたわけではなかった。
一緒に遊んだ記憶もない。
なのに好きでたまらなくなった。ただ一緒にいるだけでよかった。
色白の大きな目をしたクリクリ頭。
模造の金ボタンのついた小学生用の黒い詰襟が似合う少年だった。
ご存命なら私と同じ80歳。
得体のしれない女の子に言い寄られて、さぞ迷惑だったでしょうが、
とおるくんは何も言わず、逃げもせず拒否もしないまま、
私と座り続けてくれた。
小学校のあの硬い四角い小さな木の椅子を見るたびに、
私は思い出すんです。
あの大胆な熱情と腰に伝わったほのかなぬくもりと、そして、大洪水を。
人生で初めて訪れた7歳の恋は、今も強烈に懐かしい。

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