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読書の夏・老いるということ

書籍
08 /09 2023
久坂部羊という人を知ったのは、ほんの10日ほど前です。

何か面白い本はないかと図書館の資料検索をしていたとき、

「寿命が尽きる2年前」という本が目に留まった。
早速借りて読んだら、これがおもしろい。


著者は、「2年後に死ぬとわかったら、
いつまでも元気で長生きという理想の選択はなくなります」と言い、
さらに「そうなったら延命など考えず、医療に近づくな」と、
世間一般の医者とはまるっきり違うことを言うのです。

今までにない発想に引きずり込まれて、この人の本を次々借りた。


「人はどう死ぬのか」「オカシナ記念病院」「老父よ、帰れ」
「黒医」「生かさず殺さず」「MR」


老人施設から父親を引き取った息子の悲喜劇に、思わずウフフ。
老父よ
朝日新聞出版 2019

久坂部氏は大阪大学医学部出身の医師で、外科、麻酔科で研修。
その後、在外公館の医務官となってサウジアラビアやオーストリア、
パプアニューギニアに赴任し、
帰国後、在宅医療に携わるようになったという経歴の作家です。


著書には一貫して以下のような事柄が書かれていた。
ただし、著者の対象は高齢者です。

「寿命が尽きかけたら病院へ運ぶな。延命治療で苦しめるだけだ」

「認知症に効く薬はない」「自覚症状がなければ検査も治療も不要」
「健康診断は受けるな。受けて検査結果が異常値と言われても、
若者も老人も正常値の基準が同じなんてあり得ない。だから気にするな」

「骨粗しょう症だといって、
80歳の老婆にカルシウム剤を飲ませても骨まで届きません」


「高齢者のコレステロールが高いからといって、
30年後の動脈硬化を予防する必要があるでしょうか」

「ガンが見つかっても老衰のほうが早い場合がある。それならことさら、
病気を見つけ出すより何もしないほうが心安らかです」

ああ、納得! 


合間にこんな本も。クマの母子の写真と解説が素晴らしい。
最近はクマの恐ろしい記事ばかりが突出していますが、共存すべき命です。
その生態を知り、事故を未然に防ぐ指針ともなる本。
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「ツキノワグマのすべて」
小池伸介・著 澤井俊彦・写真 文一総合出版 2020
「日本をダメにした新B層の研究」適菜収 ベストセラーズ 2022

今まで私は「ボケ防止に効果がある食事」だの「サプリ」だの、
「寝たきり防止の体操」なんてのに囚われていたけれど、
こうもはっきり言われてしまうと、ふんぎりがつくというものだ。


医者だった著者の父親も「自然のままに」を信条にした人で、
重症の糖尿病なのにコーヒーには砂糖を3杯、たばこは吸いたい放題。

85歳で前立腺がんと診断されたら「しめた。これで長生きせんですむ」と。
86歳で腰椎の圧迫骨折。だが本人の希望で治療せず自然に任せ、
在宅のまま87歳で大往生したという。


7編を収めた短編集「黒医」、これがまたすごい。

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KADOKAWA 令和元年

出生前診断でお腹の赤ちゃんは無脳児だと言われ、
中絶か産むか悩む母親に、お腹の子が声を出す。
「生まれたくない」「殺してくれ」と。
結局、死産。だが出てきた子は無脳児ではなく正常児だったという。

これは、科学は万能と思い込んでいる人間たちを胎児が揶揄した話だが、
不妊治療の名医の秘密を描いた「のぞき穴」というぞっとする話もある。

大人用おむつなどが売っている「シニアコンビニ老村(ローソン)」
なんてのも出てくる。

医師としての確固とした知識に裏打ちされた冷徹さとブラックユーモア、
巧みな書き手だなぁと思いました。


そしてもう一人、小堀鴎一郎という医師を知りました。

母校の東京大学医学部付属病院で外科医として勤務し、
定年後は訪問診療医として在宅患者の看取りに関わっている方です。

偶然にも小堀氏も久坂部氏も元・外科医で、高齢者医療の従事者。

小堀氏はドキュメンタリー「人生をしまう時間(とき)の出演者で、
あの明治の文豪、森鴎外のお孫さんだそうです。

私、このドキュメンタリー見ました。

糸井重里氏との対談集「いつか来る死」を読んで驚きました。
久坂部氏と同じ思いをお持ちだったからです。


カトリック信者の小堀先生、聖母病院の医師のもとへ20年間ほど通った。
入院患者にはカトリック関係者が多くいて、その医師が、
「ブラザーでもファーザーでも死ぬのはこわいんだ」と言っていたとか。
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マガジンハウス 2020

久坂部氏と小堀氏の共通した思いとは、こういうものでした。

「食べないから死ぬのではなく、死ぬべき時が来たから食べなくなるのです」

「在宅で看取りを決めていた101歳の女性の息子から、入院を要請された。
死に向かう母親をまじかに見ていられなくなったんでしょう。
しかし、一旦入院したら医者は無駄とわかっていても気管切開や点滴をする。
これをすると患者は苦しみつつ死ぬ。


彼女も人工呼吸器をつけた。命が長引くにつれ家族は来なくなった。
寝たきりのまま暗い集中治療室で10か月生き続けたが、
だれにも看取られず亡くなった。病院における孤独死です。
あのまま在宅で看取れば数日で安らかな最期を迎えられたのに」
(小堀氏)

「一旦、胃ろうなど作ったらなかなか死ねない。
あとから取ってと頼まれても、医者は殺人罪に問われるから
取り外すことはできない」
(久坂部氏)

小堀氏は「死ぬべき時が来たから食べなくなる」としつつも、
「一人一人それぞれのケースがある。胃ろうをして元気が回復して、
また口から食事ができるようになる場合もある」


「認知症のテストは万能ではない。
認知症テストでダメだった人が実生活ではちゃんとふるまっている。
その逆もある。認知症は病気ではなく老化の一つという学説もある」

「医療は科学的になればなるほど[医療]から遠ざかる。
患者とは関係のない研究者の[趣味]になる」
(久坂部氏)

この作品、う~ん、イマイチ。平板で新鮮味がない。
主人公のグダグダ話をダラダラ聞かされている感じ。
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朝日新聞出版 2020

高齢者医療の専門医のお二人に見えているものは、
テレビに出てくる医者や老人向けの本が示すものとは全く違いました。

今までの私の認識はすべてひっくり返りました。
老いるということに抗うことも、身構えることもしなくていいんだと思ったら、
憑き物が落ちたみたいに心が軽くなりました。


そしてお二方は言う。
「日本人は死を穢れたものとして常に遠ざけてきたが、
死は決してタブーではない。タブーにしてはいけない」

「自分にとって大事なことは何なのか、意識しながら一日一日を生きる。
人は生きてきたようにしか死ねませんからね」と小堀氏。


で、小堀氏の著作ももっと読んでみたくなって、貸し出しの申し込みをした。

この炎天下、本読みたさに図書館まで徒歩で往復40分の道のりを、
三日ごと汗だくで通い、帰宅後はシャワーでさっぱりしてから、
エアコンガンガンの部屋で読書三昧の日々。

今、久坂部氏のデビュー作「廃用身(はいようしん)を読み終えたところ。

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幻冬舎 2003

実話のようなフィクションという実に巧妙な書き方で、
この主人公は著者自身? いやそんなはずはないと何度も自問自答。

これは「廃用」となった手足を切断して老人たちに活気を取り戻すという
画期的な新治療を始めた老人施設の医師が、医師会や世間、
マスコミからの攻撃に追い詰められて自死、妻もあとを追うという、
サスペンスもどきの、しかし非常に奥深い物語でした。

生活のクオリティを高めるために無用となった四肢を切り落としたことは、
この医者個人の嗜虐性のなせる業か、
それとも彼は老人医療の突出者だったのか。


歪曲報道と、それに便乗して主人公を叩く幼なじみや昔の同僚やご近所さん。
世間は、真面目に取り組んだ記事より歪んだ報道を歓迎し信じてしまう、
そうした現代の病んだ社会を見事にあぶり出していた。

ちなみに「廃用身」とは、脳梗塞などで回復の見込みのない手足のことで、
れっきとした医学用語だそうです。


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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞