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命の再生

盃状穴②
03 /06 2023
明治新政府が「迷信禁止令」を出す前まで、
庶民はあちこちの石に穴を穿った。

最も多く開けたのは手水鉢で、そうした穴や溝は今でも各地に残っている。

のちに「盃状穴」と命名されたこの穴は、
子宝や安産祈願のために開けられたと世間に流布していますが、
果たしてそうでしょうか。


ライデン神社1
埼玉県春日部市備後東5‐10‐48 雷電神社

この奇妙な「穴」や「溝」は、なぜ手水鉢に多いのか。
なぜ、手水鉢は特別視されたのか。

その理由の一端を、イラン研究者で神話、歴史学者だった井本英一先生が、
「十二支動物の話」
井本英一 法政大学出版 1999で解説しています。

「西洋の水盤や日本の手水鉢は古くは自然の泉にあたる場所にあり、
そこはあの世とこの世との境界を意味する場所であった」

「イスラエルではこのような境界に、牛の表象が用いられた」
「手水鉢の青銅製の竜はあの世の水である生命の水を吐き出している」


井本英一
この本、すごく面白いです。砂地に水が沁み込むように納得の連続。

さて昔から、生命の誕生は海からといわれてきました。
そういえば、盃状穴のある石造物は海寄りの地域に多い。

当地で私が歩いた範囲で言えば、圧倒的に南に開けた村々にあって、
山間部ではほんの1、2例、沼や川のそばの寺で見つけたくらいだった。

山間部だが沼の近くにある寺の敷石に穿たれた盃状穴
CIMG1400_2023022320505552f.jpg
静岡市葵区南沼上 大安寺

井本先生はしきりに「あの世とこの世の境界」を言う。
そしてそこは「命を再生」する場所だった、と。

私は今まで「命の再生」ということを、サラッと流し過ぎてきました。

そんなこと、不可能に決まっているから、見果てぬ「夢」ではないか、
だって命は自分一代限りのものだもの。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみた。

ひょっとして、

人々が「あの世とこの世の境」で、子宝や安産を願ったのは、
子供が欲しいという単なる個人的な願望だけではなく、
もっと別の意味が込められていたのではないか、と。

古今東西、人々は、
「命は繰り返し生まれ変わる」という「輪廻転生」を信じてきた。

とはいえ、
なぜそれほどまでに「繰り返し生まれ変わりたい」と思ったのか、
そして死してのち必ず子孫となって再生すると信じたのか、

サッパリわかりません。

下の写真の石は現在は踏み石ですが、
石の側面に「願主 酒屋内 おかつ」とあるそうです。


酒屋のおかつさんが何を願って奉納したものか、
この状態ではわかりません。


穴や溝は後世の人が開けたものでしょうが、
この様子から、よほどご利益がある石碑だったように思います。

でも今はそれが「踏み石」に。末路が哀れ過ぎます。
雷電神社さんには石を起こして再調査して欲しいと願っています。
面白い発見がありそうですから。
雷電神社
埼玉県春日部市備後東5‐10‐48 雷電神社

「穴と溝」の深みにハマるにつれて私の中で、
「盃状穴は子宝や安産祈願に女性が穿った」
という定説への疑問が出てきました。

定説ではそうなっているけれど、
そんなふうに一括りにするのは間違っているんじゃないのか、と。

市井の女性が穿ったとすれば、それは後世のことであって、
その場合でも主導者は男性ではなかったのか、と思ったんです。

だって、そうでなければ、
古墳から出土した石棺の盃状穴の説明がつきません。

また、
女性の血の穢れを嫌う神域の、しかも手水鉢という神聖な場所に、
妊婦をやすやすと招き入れていたというのも疑問です。

もしそうであれば、
それは巫女という特別な女性にしかできないことだと思うのです。


盃状穴を穿った行為には、もっと根元的で複雑な要素があったはず。

そう思い始めた理由の一つが、
明治中頃まで行われていた「間引き」の風習です。

間引きは罪悪感なしで行われていたという。

子供を授かりたいという気持ちと生まれた子供を殺す「間引き」

次回はそのことに触れていきます。


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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞