西行法師の登場
三重県総合博物館
文治二年三月、義経の愛妾・静(しずか)が捕らえられて鎌倉へ。
このとき静さんは義経の子を身ごもっていた。
そんな身なのに、頼朝じきじきに「義経の居場所を言え」と尋問したり、
酒席にはべらせて酌をさせたり、舞を舞わせたり。
言い寄る武将もいて、もうセクハラ三昧。
4か月後出産するものの男の子だったため、
赤ん坊は由比ガ浜で殺されてしまいます。
京都では、義経の主だった郎党たちが次々捕らえられて梟首(きょうしゅ)。
しかし、肝心の義経はいまだ行方知れず。
そんなさ中の八月には、
北面の武士から世捨て人になった西行が、
戦乱で焼けた東大寺再建の勧進のため陸奥国(岩手県)へ旅立ちます。
こちらは東海道の難所「小夜(さや)の中山」を行く西行(赤丸の中)です。
静岡県の日坂宿(掛川市)と金谷宿(島田市)の間にある峠です。
眼下に「越すに越されぬ」と歌われた大井川が流れています。

「西行法師行状絵巻」より
西行このとき69歳。ここを歩くのは二度目。
そのときの歌がこれです。
年たけてまた越ゆべしと思ひきや
命なりけりさやの中山
「西行」の著者の白洲正子氏は、この歌についてこう書いています。
「40年以上も前にはじめて小夜の中山を越えた日のことを憶い出して、
激しく胸に迫るものがあったに違いない。
その長い年月の体験がつもりつもって、
「命なりけり」の絶唱に凝結した」
「胸に迫るものがあって、絶唱」-。
いいなあ、この感じ。魂の叫び。
西行ファンの芭蕉もまたここで句を詠んだ。
命なりわづかの笠の下涼み
しかし白洲氏は、
「言い得て妙とは思うものの、
西行の歌の大きさと深さには比すべくもない」と辛らつ。
その白洲氏もまた、ここを訪れています。
「94歳になる茶店のおばあさんに会った」と書いています。
こちらは私が会ったときのおばあさんです。
おばあさんは子育て飴を売る「扇屋」のご主人のちとせさん。

掛川市小夜鹿
私がお会いしたときは98歳でしたから、
白洲さんが訪れたのはその4年前になります。
さて、西行が焼けた東大寺の大仏に使う金(こがね)を求めた先は、
平泉の藤原氏です。
義経もまた、翌文治三年二月に同じ藤原氏を頼って落ちていきます。
一見、何のつながりもなさそうな二人ですが、同じ奥州へというのは、
偶然でしょうか?
※画像提供/「西行法師行状絵巻」小松茂美編 中央公論社 1995
※参考文献/「西行」白洲正子 新潮社 1988
/現代語訳「吾妻鏡」五味文彦 本郷和人編
吉川弘文館 2008
このとき静さんは義経の子を身ごもっていた。
そんな身なのに、頼朝じきじきに「義経の居場所を言え」と尋問したり、
酒席にはべらせて酌をさせたり、舞を舞わせたり。
言い寄る武将もいて、もうセクハラ三昧。
4か月後出産するものの男の子だったため、
赤ん坊は由比ガ浜で殺されてしまいます。
京都では、義経の主だった郎党たちが次々捕らえられて梟首(きょうしゅ)。
しかし、肝心の義経はいまだ行方知れず。
そんなさ中の八月には、
北面の武士から世捨て人になった西行が、
戦乱で焼けた東大寺再建の勧進のため陸奥国(岩手県)へ旅立ちます。
こちらは東海道の難所「小夜(さや)の中山」を行く西行(赤丸の中)です。
静岡県の日坂宿(掛川市)と金谷宿(島田市)の間にある峠です。
眼下に「越すに越されぬ」と歌われた大井川が流れています。

「西行法師行状絵巻」より
西行このとき69歳。ここを歩くのは二度目。
そのときの歌がこれです。
年たけてまた越ゆべしと思ひきや
命なりけりさやの中山
「西行」の著者の白洲正子氏は、この歌についてこう書いています。
「40年以上も前にはじめて小夜の中山を越えた日のことを憶い出して、
激しく胸に迫るものがあったに違いない。
その長い年月の体験がつもりつもって、
「命なりけり」の絶唱に凝結した」
「胸に迫るものがあって、絶唱」-。
いいなあ、この感じ。魂の叫び。
西行ファンの芭蕉もまたここで句を詠んだ。
命なりわづかの笠の下涼み
しかし白洲氏は、
「言い得て妙とは思うものの、
西行の歌の大きさと深さには比すべくもない」と辛らつ。
その白洲氏もまた、ここを訪れています。
「94歳になる茶店のおばあさんに会った」と書いています。
こちらは私が会ったときのおばあさんです。
おばあさんは子育て飴を売る「扇屋」のご主人のちとせさん。

掛川市小夜鹿
私がお会いしたときは98歳でしたから、
白洲さんが訪れたのはその4年前になります。
さて、西行が焼けた東大寺の大仏に使う金(こがね)を求めた先は、
平泉の藤原氏です。
義経もまた、翌文治三年二月に同じ藤原氏を頼って落ちていきます。
一見、何のつながりもなさそうな二人ですが、同じ奥州へというのは、
偶然でしょうか?
※画像提供/「西行法師行状絵巻」小松茂美編 中央公論社 1995
※参考文献/「西行」白洲正子 新潮社 1988
/現代語訳「吾妻鏡」五味文彦 本郷和人編
吉川弘文館 2008
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