絵引と漢字遊び
三重県総合博物館
=嬉しいお知らせです=
渋沢敬三の祖父で、
2024年発行の1万円札の顔になる実業家・渋沢栄一翁が
青年時代に担いだ力石が見つかりました。
長野県上田市教育委員会の方のご尽力です。
詳細は今しばらくお待ちください。
ーーーーー◇ーーーーー
「字引と似かよった意味で、絵引は作れぬものか」
渋沢敬三の著作を読んでいて、
発想の凄さ、おもしろさにハッとしたのがこの「絵引」です。
渋沢氏はいう。
「絵巻物の中から貴族文化、あるいは武家文化を取り去ると
残るものはその当時の常民の生活記録であります」
その生活記録を資料として残すために、
絵巻物の中から資料となりうる画面をチェックして、
その部分のみを画家に模写してもらい、これに題名と部分名を加え、
解説をつけて、1000枚に及ぶ絵図に仕上げていったそうです。
こちらは「一遍聖絵」に出てくる女性の旅の様子です。

「日本常民生活絵引」よりお借りしました。
女性は市女笠(いちめがさ)をかぶり、袿(うちぎ)を着ています。
この市女笠に布を垂らして顔を見せないように工夫したものもあります。
袿を腰のあたりでしぼった形が壺のようにみえるところから、
これを「壺装束」といいます。
足ごしらえは脛巾(はばき=脚絆)と草履で、ふところに赤ん坊を入れています。
女の旅だけでも大変なのに、赤ん坊連れとは驚きです。
曲げ物の桶を担いだ男は従者です。
「言葉だけの資料ではなかなか残らない。
また残ってもよくわからないいろいろの動作が、絵で見るとよくわかる」
と渋沢氏が言った通り、子連れの旅の様子が一目瞭然です。
下の絵は運搬の様子です。
なぜわざわざ裸の肩で担いでいるのかについて、
参考文献として使わせていただいた「絵引」では不明としていましたが、
たぶん、こうだと思います。
「東海力石の会」の大江誉志氏からお聞きしたのですが、
「力石を担ぐとき、服を着てやると布でずれて持ちにくい。
素肌でやると石がピッタリ肌に吸い付いて落ちにくくなる」と。
それと同じで、
素肌の方が棒が滑りにくいからだと思うのですが、どうでしょうか。

「日本常民生活絵引」「天狗草子」よりお借りしました。
さて、運搬方法には、
担ぐ、背負う、引っぱる、頭に乗せる、牛馬を使うなど様々あります。
この絵の人は天秤棒を使っています。
この天秤棒のことを「朸(おうご)」といいます。
木偏に力と書いて「朸(おうご)」。
木製の棒に力を加えて担ぐわけですから、理にかなっています。
力石研究の第一人者の高島先生もこうした漢字に注目しました。
先生が興味を持ち、著書で紹介した漢字をここに書き出してみます。
●田で力を発揮するのが男
●力が少ないと劣る
●税を労働で支払うのが主税(ちから)
●重いものに力が加わると動く
なるほどなあと感心しつつ、次のこれでつまづきました。
●重い鐘に力を加えると勇ましい。
鐘に力で勇ましいって、意味がわかりません。
そこで師匠に問い合わせました。
答えは以下の通りです。
勇の文字の力の上は甬(よう)。
つまりこの文字は甬と力でできています。
で、この甬って何かというと、
甬鐘(ようしょう)という柄のついた鐘のこと。
これが甬鐘(ようしょう)です。

この重い鐘に力を加えるには非常な気力がいる。
その気力を出す様子が猛々しく勇ましい。
なので、「重い鐘に力を加えると勇ましい」になるとのことでした。
ちなみに「力」という文字は「力強い腕」を意味するとか。
私はまた、勇は「マ」に「男」だからマオトコだ、なんて思っちゃって。
どこまでも不肖の弟子で、師匠、すみません。
で、ついでながら、
勇に水を表わすサンズイをつけると「湧・涌」(わく)になります。
勇ましく湧き出る水ってわけです。
私も真面目に考えてみました。
力をたくさん加えたらどうなるか。
●一つの仕事に2人以上の力を合わせると協力の協になる
●しかし協と同じ3つの力でも、
月(肉)を切るのは脅しになってしまいます。
力も使いようで良くも悪くもなるってことなんですね。
漢字って実に味わい深い!
で、恐れながら、
わたくしメから三重県総合博物館さまへの提案です。
もしもいつか「力石の企画展」をやっていただけるなら、
ぜひ、力石にまつわる絵引と力の漢字遊びもその中へ入れてくださいね。
とまあ、
たとえ見果てぬ夢であっても、「いつでも夢を」の世代ですから。
力石に関する「絵引」は次回ご紹介いたします。
※参考文献・画像提供/「新版絵巻物による日本常民生活絵引」第一巻
澁澤敬三・神奈川大学日本常民文化研究所編
平凡社 1990
/「新版絵巻物による日本常民生活絵引」第三巻
編等同上
※参考文献/「澁澤敬三著作集 第3巻」平凡社 1992
/「力石ちからいし」高島愼助 岩田書院 2011
渋沢敬三の祖父で、
2024年発行の1万円札の顔になる実業家・渋沢栄一翁が
青年時代に担いだ力石が見つかりました。
長野県上田市教育委員会の方のご尽力です。
詳細は今しばらくお待ちください。
ーーーーー◇ーーーーー
「字引と似かよった意味で、絵引は作れぬものか」
渋沢敬三の著作を読んでいて、
発想の凄さ、おもしろさにハッとしたのがこの「絵引」です。
渋沢氏はいう。
「絵巻物の中から貴族文化、あるいは武家文化を取り去ると
残るものはその当時の常民の生活記録であります」
その生活記録を資料として残すために、
絵巻物の中から資料となりうる画面をチェックして、
その部分のみを画家に模写してもらい、これに題名と部分名を加え、
解説をつけて、1000枚に及ぶ絵図に仕上げていったそうです。
こちらは「一遍聖絵」に出てくる女性の旅の様子です。

「日本常民生活絵引」よりお借りしました。
女性は市女笠(いちめがさ)をかぶり、袿(うちぎ)を着ています。
この市女笠に布を垂らして顔を見せないように工夫したものもあります。
袿を腰のあたりでしぼった形が壺のようにみえるところから、
これを「壺装束」といいます。
足ごしらえは脛巾(はばき=脚絆)と草履で、ふところに赤ん坊を入れています。
女の旅だけでも大変なのに、赤ん坊連れとは驚きです。
曲げ物の桶を担いだ男は従者です。
「言葉だけの資料ではなかなか残らない。
また残ってもよくわからないいろいろの動作が、絵で見るとよくわかる」
と渋沢氏が言った通り、子連れの旅の様子が一目瞭然です。
下の絵は運搬の様子です。
なぜわざわざ裸の肩で担いでいるのかについて、
参考文献として使わせていただいた「絵引」では不明としていましたが、
たぶん、こうだと思います。
「東海力石の会」の大江誉志氏からお聞きしたのですが、
「力石を担ぐとき、服を着てやると布でずれて持ちにくい。
素肌でやると石がピッタリ肌に吸い付いて落ちにくくなる」と。
それと同じで、
素肌の方が棒が滑りにくいからだと思うのですが、どうでしょうか。

「日本常民生活絵引」「天狗草子」よりお借りしました。
さて、運搬方法には、
担ぐ、背負う、引っぱる、頭に乗せる、牛馬を使うなど様々あります。
この絵の人は天秤棒を使っています。
この天秤棒のことを「朸(おうご)」といいます。
木偏に力と書いて「朸(おうご)」。
木製の棒に力を加えて担ぐわけですから、理にかなっています。
力石研究の第一人者の高島先生もこうした漢字に注目しました。
先生が興味を持ち、著書で紹介した漢字をここに書き出してみます。
●田で力を発揮するのが男
●力が少ないと劣る
●税を労働で支払うのが主税(ちから)
●重いものに力が加わると動く
なるほどなあと感心しつつ、次のこれでつまづきました。
●重い鐘に力を加えると勇ましい。
鐘に力で勇ましいって、意味がわかりません。
そこで師匠に問い合わせました。
答えは以下の通りです。
勇の文字の力の上は甬(よう)。
つまりこの文字は甬と力でできています。
で、この甬って何かというと、
甬鐘(ようしょう)という柄のついた鐘のこと。
これが甬鐘(ようしょう)です。

この重い鐘に力を加えるには非常な気力がいる。
その気力を出す様子が猛々しく勇ましい。
なので、「重い鐘に力を加えると勇ましい」になるとのことでした。
ちなみに「力」という文字は「力強い腕」を意味するとか。
私はまた、勇は「マ」に「男」だからマオトコだ、なんて思っちゃって。
どこまでも不肖の弟子で、師匠、すみません。
で、ついでながら、
勇に水を表わすサンズイをつけると「湧・涌」(わく)になります。
勇ましく湧き出る水ってわけです。
私も真面目に考えてみました。
力をたくさん加えたらどうなるか。
●一つの仕事に2人以上の力を合わせると協力の協になる
●しかし協と同じ3つの力でも、
月(肉)を切るのは脅しになってしまいます。
力も使いようで良くも悪くもなるってことなんですね。
漢字って実に味わい深い!
で、恐れながら、
わたくしメから三重県総合博物館さまへの提案です。
もしもいつか「力石の企画展」をやっていただけるなら、
ぜひ、力石にまつわる絵引と力の漢字遊びもその中へ入れてくださいね。
とまあ、
たとえ見果てぬ夢であっても、「いつでも夢を」の世代ですから。
力石に関する「絵引」は次回ご紹介いたします。
※参考文献・画像提供/「新版絵巻物による日本常民生活絵引」第一巻
澁澤敬三・神奈川大学日本常民文化研究所編
平凡社 1990
/「新版絵巻物による日本常民生活絵引」第三巻
編等同上
※参考文献/「澁澤敬三著作集 第3巻」平凡社 1992
/「力石ちからいし」高島愼助 岩田書院 2011
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