ラストハンター
世間ばなし
市の広報紙に聞きなれない講演会が載っていた。
「罠猟の極意と山や川の現在」
講師は静岡県西部の浜松市天竜区に住むホンモノの猟師、
片桐邦雄さん。昭和26年生まれ。
猟師といっても獲物を鉄砲で射とめる人ではない。
イノシシや鹿と向き合い、
一進一退を繰り返しつつ捕獲する罠(ワナ)猟師です。
こうした猟師さんはこの人が日本で唯一かもしれません。
日本一の「罠猟師」であることは間違いありません。
この日は雨で、止めようかと迷った。
でも、出かけてよかった。
すべて自らの経験と信念に裏付けされたウソ偽りのない言葉に、
私はたちまち魅了された。
下の写真は、静岡県生まれのノンフィクション作家・飯田辰彦氏が、
年間を通じて片桐氏に密着取材して書き上げた
「ラストハンター・片桐邦雄の狩猟人生とその「時代」」です。
背負っているのはイノシシです。

鉱脈社 2011年
講演の初めから、罠にかかったイノシシとの息詰まるような映像。
猛り狂うイノシシと人との、まさに命のやり取りです。
獲物の心臓にヤリを突き刺す場面もあった。
講演が始まる前、司会者から「残酷な場面もございます」
とのアナウンスがあったけれど、講師の片桐氏は、さらりとこう言った。
「みなさんはお肉屋さんできれいに並べられた肉を買われる。
でもその前にこうしたことを必ずしなければならないんです。
みなさんも他の動物から命をいただいているんです」
片桐氏が鉄砲でなく罠猟「足くくり罠」にこだわるのは、
「おいしい肉を食べていただきたいから」
でも何を隠そう、私は某山中でこのくくり罠に掛かりそうになったのですよ。
力持ちが担ぎあげたという地蔵さんを探しているうちに道に迷って…。
害獣駆除のために仕掛けられていたんです。
画面の中のイノシシと自分が重なって、ゾッとしながら聞いていました。
罠にかからなかった幸運に感謝しつつ、話の続きです。
獲った獲物は自宅の解体作業場へ運び、自らの手ですべて処理。
欝血死と失血死とで違う肉の旨みや内臓の説明など、
医療関係者も顔負けの知識です。

「ラストハンター」よりお借りしました。
天竜川上流の自然の中で育った片桐氏は、
中学を卒業すると迷わず調理人の道へ。
二十歳のとき故郷へ戻り、割烹「竹染」を開業。
そのときから猟期は山へ、夏は天竜川の鮎やうなぎ、
家では日本蜜蜂の飼育という具合に、どっぷり自然と向き合ってきた。
少年のころ、鮎やうなぎで湧き立っていた川もダムで一変し、故郷を追われた。
片桐氏はいう。
「乱獲したから魚が減ったといわれるが、そうじゃない。
魚や動物を住めないようにしたのは自然を変えてしまった人間なんです。
今、洪水を起こすのは植林した山ばかりです。
植林した針葉樹は根が浅いし、1種類しか植えないから。
雑多の樹木が茂る山は崩れないんです。
山の動物の死は九割が自然死、あとの一割が人による捕獲です。
彼らは一日中、必死で食料確保に歩いています。
そうして死んだら他の動物や植物に自分を提供するんです」
天竜川で投網を打つ片桐氏。

「ラストハンター」からお借りしました。
毎日大量に作られて大量に廃棄される食品と、
必要なだけ山や川、海から命をいただいて共存していく社会。
人間もまたこの自然を構成している生き物に過ぎないのに、
驕りすぎたのではないかと、そんなことを考えさせられた講演でした。
で、私、自分が今まで食べた山の野生動物を思い出してみたんです。
ヤマドリ、うさぎ、鹿、イノシシ、クマ。
クマは熊の取材に行った民宿で食べました。熊鍋。
ご主人は私が自然保護を持ちだして非難するのではないかと警戒していた。
で、息子さんが硬い表情で、
「山のモンには山の暮らしっちゅうのがあるんです」という。
で私は、熊肉をパクつきながら「あなたもお父さんと猟に?」と聞いたら、
傍らの父親が、「それがダメなんだよ、こいつ。
可哀そうだって、鳥にさえ鉄砲向けられない」って苦笑いした。
でもこのときはっきりわかったことがあるんです。
野生動物の保護に一番貢献しているのは、山に住むこの人たちだって。
「罠猟の極意と山や川の現在」
講師は静岡県西部の浜松市天竜区に住むホンモノの猟師、
片桐邦雄さん。昭和26年生まれ。
猟師といっても獲物を鉄砲で射とめる人ではない。
イノシシや鹿と向き合い、
一進一退を繰り返しつつ捕獲する罠(ワナ)猟師です。
こうした猟師さんはこの人が日本で唯一かもしれません。
日本一の「罠猟師」であることは間違いありません。
この日は雨で、止めようかと迷った。
でも、出かけてよかった。
すべて自らの経験と信念に裏付けされたウソ偽りのない言葉に、
私はたちまち魅了された。
下の写真は、静岡県生まれのノンフィクション作家・飯田辰彦氏が、
年間を通じて片桐氏に密着取材して書き上げた
「ラストハンター・片桐邦雄の狩猟人生とその「時代」」です。
背負っているのはイノシシです。

鉱脈社 2011年
講演の初めから、罠にかかったイノシシとの息詰まるような映像。
猛り狂うイノシシと人との、まさに命のやり取りです。
獲物の心臓にヤリを突き刺す場面もあった。
講演が始まる前、司会者から「残酷な場面もございます」
とのアナウンスがあったけれど、講師の片桐氏は、さらりとこう言った。
「みなさんはお肉屋さんできれいに並べられた肉を買われる。
でもその前にこうしたことを必ずしなければならないんです。
みなさんも他の動物から命をいただいているんです」
片桐氏が鉄砲でなく罠猟「足くくり罠」にこだわるのは、
「おいしい肉を食べていただきたいから」
でも何を隠そう、私は某山中でこのくくり罠に掛かりそうになったのですよ。
力持ちが担ぎあげたという地蔵さんを探しているうちに道に迷って…。
害獣駆除のために仕掛けられていたんです。
画面の中のイノシシと自分が重なって、ゾッとしながら聞いていました。
罠にかからなかった幸運に感謝しつつ、話の続きです。
獲った獲物は自宅の解体作業場へ運び、自らの手ですべて処理。
欝血死と失血死とで違う肉の旨みや内臓の説明など、
医療関係者も顔負けの知識です。

「ラストハンター」よりお借りしました。
天竜川上流の自然の中で育った片桐氏は、
中学を卒業すると迷わず調理人の道へ。
二十歳のとき故郷へ戻り、割烹「竹染」を開業。
そのときから猟期は山へ、夏は天竜川の鮎やうなぎ、
家では日本蜜蜂の飼育という具合に、どっぷり自然と向き合ってきた。
少年のころ、鮎やうなぎで湧き立っていた川もダムで一変し、故郷を追われた。
片桐氏はいう。
「乱獲したから魚が減ったといわれるが、そうじゃない。
魚や動物を住めないようにしたのは自然を変えてしまった人間なんです。
今、洪水を起こすのは植林した山ばかりです。
植林した針葉樹は根が浅いし、1種類しか植えないから。
雑多の樹木が茂る山は崩れないんです。
山の動物の死は九割が自然死、あとの一割が人による捕獲です。
彼らは一日中、必死で食料確保に歩いています。
そうして死んだら他の動物や植物に自分を提供するんです」
天竜川で投網を打つ片桐氏。

「ラストハンター」からお借りしました。
毎日大量に作られて大量に廃棄される食品と、
必要なだけ山や川、海から命をいただいて共存していく社会。
人間もまたこの自然を構成している生き物に過ぎないのに、
驕りすぎたのではないかと、そんなことを考えさせられた講演でした。
で、私、自分が今まで食べた山の野生動物を思い出してみたんです。
ヤマドリ、うさぎ、鹿、イノシシ、クマ。
クマは熊の取材に行った民宿で食べました。熊鍋。
ご主人は私が自然保護を持ちだして非難するのではないかと警戒していた。
で、息子さんが硬い表情で、
「山のモンには山の暮らしっちゅうのがあるんです」という。
で私は、熊肉をパクつきながら「あなたもお父さんと猟に?」と聞いたら、
傍らの父親が、「それがダメなんだよ、こいつ。
可哀そうだって、鳥にさえ鉄砲向けられない」って苦笑いした。
でもこのときはっきりわかったことがあるんです。
野生動物の保護に一番貢献しているのは、山に住むこの人たちだって。
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