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力石資料が三重県総合博物館へ③

三重県総合博物館
09 /30 2015
「事実の集積から収斂される学問的トレンドへ発展させよ」

これは四日市大学の谷口優先生が、
力石に取り組む高島愼助先生に、その目指す方向を示唆された言葉です。

各地での個々の事実の集積はあっても、
全国的にまとめられたものはない。
しかも力石は人々の記憶から急速に消えかかっている。

「事実の集積」を急がなければと考えた高島先生は、
全国47都道府県の各市町の教育委員会や自治会、老人会、文化財課等へ
力石に関する情報提供を依頼する手紙を出した。
その数1万数千通。


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「豊遊石」を担ぐ町田村矢向生まれ(現横浜市)の矢向弥五郎

ここでちょっと、高島先生の経歴を簡単にご紹介します。
先生は兵庫県姫路市のご出身。

私は3年前、その姫路市へ力石の調査、というより見物に行ってきました。
酷暑の中、姫路を歩きまくり、そこから岡山へ行きまた歩きまくり、
あげくに左足をムカデに咬まれて、リンパ浮腫という病気を発症。
ふらふらになって自宅へ戻った私に、電話の向こうから、
「僕の故郷はどうだった? よかったでしょう?」とお気楽な声。


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タクシーの待ちぼうけを食らった姫路市広畑才の天満神社

「タクシー呼んだら、待てどくらせど来ない。催促の電話をしたら、
”ここらへんは天満宮だらけや。どこの天満宮や”ってえらい剣幕。
丁寧に住所を伝えたのに…。
それに先生が、ここへ行ったらこの人に会うといいよと言うから、
汗かきかき訪ねたら、事前にご連絡いただかない人とは会いませんって。
なんですか、関西ってとこは。ああ、ヤダヤダ」
と言ったら、先生、言葉もない。

先生は常々、今住んでいる三重県は「人情厚く最高だ」と言ってたけど、
でもやっぱり生まれ故郷は特別なのねえ。
それで慌てて言い足した。

「あ、そうそう。姫路駅に展示してあった山車、あれは凄かったです。
豪華絢爛。金に糸目を付けないって感じ。姫路の人は豪快ですねえ。
静岡にはあんな度肝を抜くような豪勢な山車はないですもん」
これ、お世辞でもなんでもない。本当にあれは凄かった!

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ここで行われる力持ちは市無形民俗文化財
=姫路市大津区天満・神明神社

経歴を続けます。
高校時代は体操選手として活躍。
大阪体育大学体育学部体育専攻科を修了して、三重大学医学部へ。
そこで博士号を取得。
現在は四日市大学経済学部教授で、専門は運動生理学・体育史学

「三重大学から静岡県立大学を希望したんだけどダメだった」そうで、
もし先生がこの静岡へ赴任していたら、私は調査に携わることもなく、
「静岡の力石」に私の名が記されることもなかったはず。
モノゴトはすべからく偶然の重なり合いというべきか。

それはさておき、
今までにも何度かお話したように、先生が力石の世界へ入られたのは、
伊東明上智大学教授との出会いからで、先生42歳のとき。
伊東先生もまた体育史がご専門で、その視点から、
庶民の遺物として片隅に追いやられていた力石にアカデミックな光をあて、
体育史研究の対象としたそうです。

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三重県三重郡菰野町田光・多比鹿神社

高島先生は、
平成4年(1992)、初の力石の報告書「三重県津市の力石」を発表。
しかし、その翌年、師の伊東先生ご逝去。
あとに、青森県から沖縄県にまで及ぶ膨大な資料が遺されました。

先生はそれを整理し、そこからさらに膨らませていき、
全国の力石としてまとめていこうと決意。
(とまあ、これは私の想像ですが、たぶん、当たらずとも遠からず)。
その手始めに発信したのが、
全国へ情報提供を呼びかける手紙だったのです。

そして全国から寄せられた力石の情報を元に、
カメラとメジャーと地図を片手に、軽自動車を駆っての全国行脚、

谷口先生言うところの「事実の集積」の旅が始まります。

力石(いし)を追い直ぐな航跡隠岐の島                                
   力石やゝ温かし伊予の春  高島愼助 


平成6年(1994)には、
郷土および庶民の文化遺産「力石」についてで、毎日郷土提言賞
三重県優秀賞を受賞。

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北前船の寄港地・尾道で活躍した力持ち大湊和七の像
=広島県尾道市長江・御袖天満宮

平成20年(2008)年、還暦を迎えて詠める

六十歳(むととせ)に力石追う秋の風  高島愼助

<つづく>

※参考文献・画像提供/「石に挑んだ男達」高島愼助 岩田書院 2009
           /「力石「ちからいし」」高島愼助 岩田書院 2011
※画像提供/横浜市民局「庁内報」矢向の豊遊石 第245号 1980
※参考文献/「力石を詠む」シリーズより
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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞