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将軍さまの前で

三ノ宮卯之助
07 /23 2015
江戸後期の力持ち力士・三ノ宮卯之助の足跡をたどっています。

卯之助は天保3年(1832)、地元の伊勢講の招きで、
旧粕壁(埼玉県春日部市)の東八幡神社で興行を行いました。
このとき持ち上げた石の重さは百貫目(375㎏)。

新人の栄蔵が持ったのは六十貫の石。
とはいえ、225㎏もあります。
375㎏は10Kg入りの米袋37個分+5㎏。想像を絶します。

この天保3年ごろというのは、
鎖国の日本に諸外国の船が押し寄せて、開国や通商を求め始めた時期です。
国内的にはお伊勢参りが爆発的に流行し、
また一方で大飢饉に見舞われ、
全国的に打ちこわしや一揆が起るという騒然とした時代です。

しかし、このような時代にあっても北斎は、「富嶽三十六景」を描き、
広重は、「東海道五十三次」を世に出し喝采を浴びます。

四日市大学の高島愼助先生制作の伊勢型紙による
「東海道五十三次」のうちの「日本橋 朝之景」です。

日本橋tokaido1

東八幡神社での興行の翌天保4年6月
卯之助は、江戸・富岡(深川)八幡宮において、
徳川十一代将軍家斉の前で力持ちを披露するという栄誉を得ます。
こうした将軍ご上覧の栄に浴した記録は、卯之助以外にはないそうです。
=のちに疑問符がつきますが…。ここでは高崎節をそのままま載せます。

その時の引き札と番付です。
まずは引札

img727.jpg
石の重さはそれぞれ80貫目、120貫目、280貫目。

中央で280貫目の石に米俵3俵を乗せて足差しをしているのが、
卯之助です。

このご上覧に臨み卯之助は、
現在の埼玉、千葉、東京という広範囲の地域から45名の力士を選び、
師匠格の肥田文八や小嶋久蔵、同僚の仙太郎も加えて番付を作成。
これをわずか26歳で成し遂げたのですから、
卯之助のリーダーとしての資質がいかに優れていたかがわかると、
高崎は言っています。

卯之助が練りに練った番付がこちら。
img725 (2)

卯之助は東の大関となっていますが、
これはあくまでも卯之助一門限定のご上覧の番付です。
卯之助が晴れて江戸全域の力持ちから選ばれた
東の大関に昇り詰めるには、
さらに15年後の41歳まで待たなければなりません。

興行場所となった富岡(深川)八幡宮は、
慶安元年以来禁止されていた勧進(有料)相撲が、
貞享元年(1684)正月、24年ぶりに再開された場所です。
これは五代将軍綱吉の希望だったとか。

CIMG0789.jpg
富岡(深川)八幡宮にある「横綱力士碑」=東京都江東区富岡

その後相撲の本場所は、本所回向院に落ち着きます。

卯之助の力業をご覧になった将軍家斉は、力持ちや相撲が好きだったようで、
14歳のとき、子供相撲をご上覧。
30歳のときには、
江戸中から相撲に優れた子供を集めて、吹上の苑中で相撲を取らせたとか。
家斉は子供相撲2回を含む計5回もの見物をしています。

ちなみに卯之助の力持ちのご上覧は、家斉61歳のときでした。

富岡(深川)八幡宮に残る力石です。
残念ながら、卯之助の石ではありませんが、ここに掲載します。

CIMG0785 (2)
これらは雑司ケ谷鬼子母神から移設したもので、大正から昭和の石。

大正時代の深川の力持ちたち。
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田口俊一氏蔵 「週刊朝日」より

敗戦直後
深川倉庫付近で力持ちを披露する地元の力持ちグループです。
img730 (2)
田口俊一氏蔵 「週刊朝日」より

現在も行われている「深川力持睦会」による力持ちです。
img731.jpg

「物流の父」と言われた平原直先生は、

「力持ちの技法こそはわれわれの先人たちが、
苦心に苦心を重ねた末に編み出した貴重な日本の伝統技術の一つである」

として、東京力持ちの復活に尽力されました。
そして昭和31年、この「深川の力持ち」は東京都無形民俗文化財に指定され、
毎年、会員による力持ちを披露しています。

力石(りきいし)と詠むは今日日(きょうび)の若者ら  谷 克己

<つづく>

※参考文献・画像提供/「石に挑んだ男達」高島愼助 岩田書院 2009
※参考文献/「三田村鳶魚全集第十五巻」昭和51年 中央公論社
      /四日市大学高島研究室・力石の歌
※画像提供/「東京の力石」高島愼助 岩田書院 2003
     /「週刊朝日」第10巻10号 1975
     /四日市大学高島研究室、高島・伊勢型紙作品
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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞