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「力石には全く関心はない!」

三ノ宮卯之助
07 /13 2015
埼玉県越谷市の卯之助研究者・高崎力氏が、
同郷の先輩・瀬尾哲太郎氏から、
「以前鎌倉・鶴岡八幡宮で卯之助の石を見た。調べてくれ」と言われ、
鎌倉方面の探索を始めたのが昭和26年のこと。

22歳の青年教師だった高崎氏は、機会あるごとに鶴岡八幡宮を訪れ、
立ち入り禁止区域まで調べたものの見つからず。

これが最後の調査と決めた平成9年(1997)2月、
とうとう発見できないまま夕闇迫る八幡宮前に虚しくたたずんでいた高崎氏、
なんとなく目の前の駐車場造成中の工事現場に目を向けたとき、
空き地の奥に小さな赤い鳥居が、
ぼんやり浮かんでいるのに気がついた。

導かれるように歩を進めると、そこになんと力石が、しかも"二つも…
三栄稲荷神社の卯之助力石が発見された瞬間でした。

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55余×33×23㎝ 神奈川県鎌倉市雪ノ下(八幡宮前駐車場南西隅)

「奉納 五拾八メ余 武刕 岩附 卯之助持□」

img711.jpg
38×48×20㎝ 同上

「奉納さし石 四拾メ目 武刕 岩附卯之助□□」

石垣にめり込んじゃってます。

溶岩の一部とし見ゆ駐車場 南西隅の小さき稲荷に  天野 翔

観光地ですからねえ、
きちんと保存して説明板もつけてアピールするといいのにナ。

「力石発見は偶然の賜物」と高崎氏はおっしゃっていますけど、
鎌倉探索を始めてからなんと46年もかかっての発見です。

努力と根気の賜物です。

この発見は毎日新聞で取り上げられ、力石への関心が一気に高まります。
平成10年、高崎氏の元へ越谷市郷土研究会の会員から、
江の島での新たな卯之助石の発見が寄せられます。
江の島については鎌倉同様、長期にわたって調べたものの見つからず、
「ここにはない」と断定した直後の発見です。

これです。
img714 (2)
75×45×33㎝ 撮影/S氏

「奉納 八拾貫 岩槻 卯之助持之」

この石が置かれていたのは、江島神社前の茶屋「あぶらや」です。
img714.jpg
 撮影/S氏 平成10年に撮影。

この発見、今度は読売新聞に掲載されました。
そのころ力石の調査を始めたばかりだった春日部市の研究者S氏、
かつて路上観察でここを訪れた折に見かけたことを思い出し、早速現地へ。

訪れたS氏に、あぶらやのマスターがこんな説明をしてくれたそうです。

「茶屋をオープンするにあたり、周囲の藪を刈り取っていたところ、
地面からなにやら文字を彫付けた石が顔を出していた。
掘り起こしてみると力石だったので、
江島神社の宮司さんの承諾を得て店頭に置いた」


昔、宮前の広場で卯之助の奉納力持ちがあり、石が奉納された。
ところがいつのころかがけ崩れがあり、石が埋まってしまった。
その後大雨で土砂が流されて、再び顔を出したということらしい。

この石は現在江島神社奥津宮へ移され、
注連縄を張られて、説明板と共に大切に保存されています。

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=神奈川県藤沢市江の島・江島神社

絵にしたのがこちら。酒井氏のスケッチです。味があります。
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画/酒井正氏

奥宮の亀甲石と力石注連(しめ)新しくありがたく見ゆ  天野 翔 

このように江の島と鎌倉での新発見が続いたものの、
肝心の鎌倉・鶴岡八幡宮の卯之助石は未発見のまま。

高崎氏によると、
瀬尾氏が旅行中に目撃し、昭和13年に「鎌倉史跡めぐりの会」会員が見た
八幡宮社務所前の卯之助力石には、

「奉納 六十五貫 武州岩付 卯之助持之」
と刻まれていたという。(昭和47年発行の「鎌倉史跡めぐり会」に記録)。

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沢田重隆画 新潮社

高崎氏は鎌倉市文化財課鶴岡八幡宮に、
紛失したままの力石の調査や八幡前駐車場の卯之助石のきちんとした保存と
公開の便の考慮を再三お願いしたものの、いずれからも、

「力石には全く関心はない。そんな余裕はない。
社務所前にそんな石があったことを知る宮司や職員はいない」
と言われる始末。

江島神社や藤沢市の即応体制とは比較にならない鎌倉でのこうした現状に、
高崎氏は「このままでは先輩・瀬尾氏に申し訳がたちません」…

厳しく、寂しい現実です。

私はふと、
静岡県三島市・三嶋大社のうしろの藪に捨てられたままの力石を
思い出してしまいました。

<つづく>

※参考文献・画像提供/「三ノ宮卯之助の力石(2)」高島愼助・高崎力
        四日市大学論集第17巻1号 2004
※参考文献/「四日市大学高島研究室・全国の力石研究」「力石の歌」
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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞