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蒲原余話 海ガメがきた町

世間ばなし
06 /05 2014
昨日ご紹介した静岡市清水区蒲原(かんばら)の話です。
蒲原は左手に富士川河口を、そして目の前に太平洋を望む町です。

江戸時代にはここに紀州・徳川家の藩公用の飛脚、七里役所があって、
刀と十手を持ち、昇り竜下り竜の伊達半てんをひるがえした男たちが5人
一組となって、街道を走り抜けて行きました。
そして広重は、ここで「蒲原夜之雪」を描いた。

そんな町にかつてアカウミガメが訪れていたのです。

img177.jpg

この蒲原に大津さんという方がいた。
失われていく砂浜で小さな子ガメたちを見守り続けた人だ。
昭和59年のことだった。
「地曳網に何か動くものがあるってんで駆けつけてみたら、
大きな親ガメでね」
それから大津さんのカメの観察が始まった。
しかしこの記録も昭和61年で終わってしまう。
浜に波消しブロックを沈めるたびに、カメは姿を見せなくなったのだ。

この大津さんには、もう一つの顔があった。
蒲原はかつて「日本一のケレンの町」と言われた。
ケレンとは鉄橋や鉄塔などの危険な高所での塗装作業のこと。
あの東京タワーを塗ったのもここのケレン衆だった。
大津さんはそのケレン衆の監督をしていた人だ。
「バラカン気質っていってね、気は荒いけど心に裏表がない
気のいい人間ばかりで、みんな誇りを持ってやってましたよ」

お会いして間もなく、大津さんは亡くなった。
そして平成11年、蒲原の浜に海ガメがやってきた。
13年ぶりの上陸に町は沸いたが、それが最後となった。
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雨宮清子(ちから姫)

昔の若者たちが力くらべに使った「力石(ちからいし)」の歴史・民俗調査をしています。この消えゆく文化遺産のことをぜひ、知ってください。

ーーー主な著作と入選歴

「東海道ぶらぶら旅日記ー静岡二十二宿」「お母さんの歩いた山道」
「おかあさんは今、山登りに夢中」
「静岡の力石」
週刊金曜日ルポルタージュ大賞 
新日本文学賞 浦安文学賞