窃盗誘発罪
ショートショート
受けなかったらどうしよう…。
ーーーーー◇ーーーーー
「窃盗誘発罪」
うち、無人販売やってます。
弁当とかお惣菜とか、あ、アイスなんかも置いてます。
でもこの頃は悪いヤツが増えて、
そう、万引き。
金払わないで品物だけ盗んでく。
あんまりやられるんで、捕まえようと思ってサ、
いろいろ仕掛けして。
料金箱の中にも防犯カメラを設置したり…。

そんで俺、店の奥に隠れて見張ってたんですよ。
見張り始めて一週間ぐらいたったころ、来たんだよ、いつものヤツが…。
防犯カメラに写っていたドロボーが。
中年の男だった。
身なりはまあまあ、普通。
で、この男、慣れた手つきでやり始めた。
弁当にアイス、一つじゃないよ、いくつも取り上げては袋に詰めてた。
さて、ここからが勝負だと思って、はやる気持ちを抑えて…。
金払うか払わないか、見極めなきゃなんないから。
で、やっぱり払わなかった。
俺は飛び出して行って、そいつに声を掛けたら、
「あ、お金、すいません。払うのを忘れた」って抜かしやがった。
今までのカメラで証明できるから、俺はヤツの目の前で警察に電話した。
警察官が二人来た。
ところがこの二人の警察官、俺に手錠かけてきやがったんだ。
「お、俺じゃないよ。ドロボーはこの男のほうだよ」と叫んだら、
警察官、首振って、自信たっぷりに言ったんだ。
「あんたを逮捕する」って。
一瞬、ニセ警官だと思ったけど、俺が電話したのは確かに警察だ。
ええーっ、な、なんでですか!
と叫んだつもりだったが、あまりの出来事に口だけパクパク。
ヤツを見たら、ニヤニヤしている。

やっとこさっとこ「なんで、俺が…」と聞いたら、
警察官が言ったんだよ。
「窃盗誘発罪だ!」
「はぁ?」
「あんた、そういう法律出来たのを知らなかったのか」
「そ、そんなの知りません」
「あんたの店、弁当なんかを並べているよな」
「はい」
「そこには誰もいないよな」
「いません。無人販売ですから」
「それがダメなんだよ」
「えっ?」
「うまそうなものをたくさん陳列しておいて誰もいない」
「し、しかし…」
「陳列棚から弁当が、ちょいとそこの旦那、私、うまそうでしょ?って誘う。
昔から言うじゃないか。据え膳食わぬは男の恥って」
「エエーッ! それとこれとは…」
「色香に迷うのも弁当の誘いに手を出すのも、違いはない。
人間は弱いからな。わかるだろ?」
「いえ、わかりません」
「あのな、
かあちゃんを裏切るつもりも、法を犯すつもりもなかったにもかかわらず、
状況がついその気を起こさせてしまう。それがいけないって言ってんだよ。
腹が減ってればなおさらだ」
「そ、そんなァ…」
「つまりだな、
あんたの店は、善良な市民に犯罪を誘発しているってことだよ。
だから、あんたを窃盗誘発罪で逮捕する!」

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