性加害「捕食者」
世間ばなし➁
イギリスの公共放送、BBCドキュメンタリー
「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」を見た。
ジャニーズという会社の前社長・ジャニー氏の性加害を扱ったものだが、
取材を進めるたびに、記者の顔が青ざめていくのがわかった。
世間では、前社長による少年たちへの性加害行為は、
20年ほど前からというが、
私が出版社に入った60年前から、それはあった。
当時、出版社の社長が取引先の銀行から頼まれて、
金持ちの令嬢を半年ほど社員として預かったことがあって、
その彼女から、こんな話を聞いた。
「学生の頃、友達がジャニーさんから逃げてきたのよ」

この出版社には芸能関係の週刊誌があって、
タレントのヒヨッコが出入りしていたが、当時の周囲の認識はこうだった。
「まともな家庭の子はこんな世界に入らないよ。女も男も商品だからね。
売れるためには体も売らなきゃスターになれないから。
親も承知でやってるんだから。どっちもどっちなんだよ」
「人気がそこそこ出てくると、今度は大人をアゴで使うようになる。
12、3のガキが椅子にふんぞり返って、
マネージャーに足を突き出して靴下をはかせたりするんだよ」
ただし、これを聞いたのは60年前のこと。
ですがそれがいつの時代であれ、もし本当なら、
この子たちは果たしてマトモな大人になれたのか。
歪んだまま天狗になったり、挫折して人生を棒に振ったりしなかったのか。
昨今は政界へ進出する芸能人も多いからと、いらぬ心配までしたくなる。

言えることはどんな状況であれ、性加害を正当化できないということ。
だってれっきとした犯罪ですから。
しかもここでは、相手は子供で加害者は生殺与奪を握る権力者。
元・少年たちが異口同音に「行為の後、お金を渡された」と言った。
あの華やかな舞台裏では、こんな汚れたことが行われていたとは。
そのころ、自分で作詞作曲をするシンガソングライターが出てきて、
その一人が「これなら枕営業しなくて済むから」と言ったので、
なるほどなあと思った。
ジャニー氏からの性被害を受けた元・少年たちが、被害を訴えながらも
「今のぼくがあるのはジャニーさんのおかげです。今でも大好きな人です」
というのを聞いて、
BBCの記者は「狂っているとしか思えない」と絶句。
心理学ではこの状態を「グルーミング」、つまり飼い慣らしというんだそうだ。

BBCの記者に対して、ジャニーズ事務所の対応もひどかった。
木で鼻をくくるというのはこういうことなんだなと思いつつ見た。
責任者が玄関口で、
馬鹿丁寧に無意味な言葉を機械的に繰り返すのを見て、
同じ日本人として恥ずかしかったし、健全さが全く感じられなかった。
記者はさらに、
テレビ、新聞、週刊誌、警察などあらゆる関係先に取材を申し込むものの、
「どこもカーテンを閉ざした」という。
なぜ口を閉ざすのかについては、
サイト「ジャニーズ百科事典」の「ジャニー喜多川」「メリー喜多川」に、
書かれている。
私はこの喜多川姉・弟はてっきり、日米のハーフかと思っていましたが、
両親ともに生粋の日本人だったんですね。
この隠ぺい体質と、
金と権力さえあればなんでも正当化してしまう日本の有り様に対して、
記者は怒りを込めてこう言った。
「子供を守らず誰も責任を取らず見て見ぬふり。恥ずべきことではないか」
「ジャニー氏の加害行為は決して秘密ではなく、それを取り巻く沈黙は、
虐待そのものとほとんど同じくらい恐ろしいといえるかもしれません」

これと同じ状況が江戸時代にもあった。
「余はここにて黙して過ぐる能はざる一事を見たり」
こう言って絶句したのは、ドイツ生まれの学者ケンペルです。
ケンペルが見たのは、東海道筋の静岡県興津・清見寺門前で
10歳から12歳の化粧した男の子が、彼らの主人(膏薬屋)の命令で、
表向きは膏薬を売り、裏で旅人に買われる子供たちだった。
僧侶も武将も公然と男色にふける。
歌舞伎の若衆が男娼として体を売る。
長い間日本の男たちは、それを「文化」だと言ってきた。
同じ性志向の大人で納得づくなら構わないが、相手は何も知らない子供。
その幼い男の子の体を大人の男に合わせるために器具を使って改造し、
客を取るのを嫌がるとリンチされ、
17,8歳になるとわずかなお金でお払い箱にした。
「東海道中膝栗毛」の喜多八も陰間出身だと作者はいう。
「子供のころそれをやらされた者は、がに股だからすぐわかる」とも。
少年たちを食い物にした大人たちは、これを「日本文化だ」と言い、
西鶴も「男色は古きころよりの由緒あることなり」と大威張りで本に書いた。
以前、カナダで会った女性教師が、
自国のカトリック神父たちの少年への性加害を怒りを込めて摘発していたが、
日本の「放送文化人」たちは、ジャニーズ氏のこの行為を、
本人が死してのちも擁護する。
ケンペルが驚愕し、宣教師のザビエルが「世界に類を見ない」
と嫌悪してから、すでに350年余。
今度はイギリス人から「人間性が欠如している。なぜなんだ」
と、問題を突き付けられた。

私が某令嬢から「友人がジャニー氏から逃げてきた話」を聞いてから
すでに60年立ち、先ごろ、有名作曲家の次男で俳優の某氏が、
70年前の自分の被害を告白した。「8歳のときから自宅で2年半続いた」と。
このおぞましい児童虐待はその間ずっと続いていたというのに、
この会社の現在の社長は「知らなかった」と言った。
この方の父親・藤島泰輔氏は上皇さんのご学友を公言していた。
WIKによると、
「藤島氏は、
事務所の実質的な運営者と言われ、のちに社長になった
ジャニー氏の姉のメリー喜多川と結婚した人で、
草創期のジャニーズ事務所を経済的にバックアップし、
ジャニー社長の人脈拡大を手助けした」とある。
ならば、当然、ジャニー氏の少年たちへの性加害を知っていたはず、
と思うのが自然です。
なのに黙っていた、諫めることもしなかったってことになる。
彼は新聞記者出身の作家・評論家だったのに。
日本社会はいつまで、この恥ずべき犯罪を黙認しているつもりだろうか。
いつまで「疑惑」というあいまいな言葉でにごしているつもりだろうか。
BBCの記者の驚きと嘆きと告発からメディアは逃げ、
「捕食者」とまで言われているのに、関係者は無言を貫いている。
国連の「ビジネスと人権」作業部会から、「異常極まりない状況」と糾弾され、
とうとう今月末から調査に乗り込まれる事態となった。
被害が発生してからすでに70年。
この国には自浄作用が全くなかったことが露呈した恥ずべき事態となった。
この件ばかりではない。被害者が男女や年齢を問わず、
日本人全般の性加害への感覚はいびつすぎる。

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「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」を見た。
ジャニーズという会社の前社長・ジャニー氏の性加害を扱ったものだが、
取材を進めるたびに、記者の顔が青ざめていくのがわかった。
世間では、前社長による少年たちへの性加害行為は、
20年ほど前からというが、
私が出版社に入った60年前から、それはあった。
当時、出版社の社長が取引先の銀行から頼まれて、
金持ちの令嬢を半年ほど社員として預かったことがあって、
その彼女から、こんな話を聞いた。
「学生の頃、友達がジャニーさんから逃げてきたのよ」

この出版社には芸能関係の週刊誌があって、
タレントのヒヨッコが出入りしていたが、当時の周囲の認識はこうだった。
「まともな家庭の子はこんな世界に入らないよ。女も男も商品だからね。
売れるためには体も売らなきゃスターになれないから。
親も承知でやってるんだから。どっちもどっちなんだよ」
「人気がそこそこ出てくると、今度は大人をアゴで使うようになる。
12、3のガキが椅子にふんぞり返って、
マネージャーに足を突き出して靴下をはかせたりするんだよ」
ただし、これを聞いたのは60年前のこと。
ですがそれがいつの時代であれ、もし本当なら、
この子たちは果たしてマトモな大人になれたのか。
歪んだまま天狗になったり、挫折して人生を棒に振ったりしなかったのか。
昨今は政界へ進出する芸能人も多いからと、いらぬ心配までしたくなる。

言えることはどんな状況であれ、性加害を正当化できないということ。
だってれっきとした犯罪ですから。
しかもここでは、相手は子供で加害者は生殺与奪を握る権力者。
元・少年たちが異口同音に「行為の後、お金を渡された」と言った。
あの華やかな舞台裏では、こんな汚れたことが行われていたとは。
そのころ、自分で作詞作曲をするシンガソングライターが出てきて、
その一人が「これなら枕営業しなくて済むから」と言ったので、
なるほどなあと思った。
ジャニー氏からの性被害を受けた元・少年たちが、被害を訴えながらも
「今のぼくがあるのはジャニーさんのおかげです。今でも大好きな人です」
というのを聞いて、
BBCの記者は「狂っているとしか思えない」と絶句。
心理学ではこの状態を「グルーミング」、つまり飼い慣らしというんだそうだ。

BBCの記者に対して、ジャニーズ事務所の対応もひどかった。
木で鼻をくくるというのはこういうことなんだなと思いつつ見た。
責任者が玄関口で、
馬鹿丁寧に無意味な言葉を機械的に繰り返すのを見て、
同じ日本人として恥ずかしかったし、健全さが全く感じられなかった。
記者はさらに、
テレビ、新聞、週刊誌、警察などあらゆる関係先に取材を申し込むものの、
「どこもカーテンを閉ざした」という。
なぜ口を閉ざすのかについては、
サイト「ジャニーズ百科事典」の「ジャニー喜多川」「メリー喜多川」に、
書かれている。
私はこの喜多川姉・弟はてっきり、日米のハーフかと思っていましたが、
両親ともに生粋の日本人だったんですね。
この隠ぺい体質と、
金と権力さえあればなんでも正当化してしまう日本の有り様に対して、
記者は怒りを込めてこう言った。
「子供を守らず誰も責任を取らず見て見ぬふり。恥ずべきことではないか」
「ジャニー氏の加害行為は決して秘密ではなく、それを取り巻く沈黙は、
虐待そのものとほとんど同じくらい恐ろしいといえるかもしれません」

これと同じ状況が江戸時代にもあった。
「余はここにて黙して過ぐる能はざる一事を見たり」
こう言って絶句したのは、ドイツ生まれの学者ケンペルです。
ケンペルが見たのは、東海道筋の静岡県興津・清見寺門前で
10歳から12歳の化粧した男の子が、彼らの主人(膏薬屋)の命令で、
表向きは膏薬を売り、裏で旅人に買われる子供たちだった。
僧侶も武将も公然と男色にふける。
歌舞伎の若衆が男娼として体を売る。
長い間日本の男たちは、それを「文化」だと言ってきた。
同じ性志向の大人で納得づくなら構わないが、相手は何も知らない子供。
その幼い男の子の体を大人の男に合わせるために器具を使って改造し、
客を取るのを嫌がるとリンチされ、
17,8歳になるとわずかなお金でお払い箱にした。
「東海道中膝栗毛」の喜多八も陰間出身だと作者はいう。
「子供のころそれをやらされた者は、がに股だからすぐわかる」とも。
少年たちを食い物にした大人たちは、これを「日本文化だ」と言い、
西鶴も「男色は古きころよりの由緒あることなり」と大威張りで本に書いた。
以前、カナダで会った女性教師が、
自国のカトリック神父たちの少年への性加害を怒りを込めて摘発していたが、
日本の「放送文化人」たちは、ジャニーズ氏のこの行為を、
本人が死してのちも擁護する。
ケンペルが驚愕し、宣教師のザビエルが「世界に類を見ない」
と嫌悪してから、すでに350年余。
今度はイギリス人から「人間性が欠如している。なぜなんだ」
と、問題を突き付けられた。

私が某令嬢から「友人がジャニー氏から逃げてきた話」を聞いてから
すでに60年立ち、先ごろ、有名作曲家の次男で俳優の某氏が、
70年前の自分の被害を告白した。「8歳のときから自宅で2年半続いた」と。
このおぞましい児童虐待はその間ずっと続いていたというのに、
この会社の現在の社長は「知らなかった」と言った。
この方の父親・藤島泰輔氏は上皇さんのご学友を公言していた。
WIKによると、
「藤島氏は、
事務所の実質的な運営者と言われ、のちに社長になった
ジャニー氏の姉のメリー喜多川と結婚した人で、
草創期のジャニーズ事務所を経済的にバックアップし、
ジャニー社長の人脈拡大を手助けした」とある。
ならば、当然、ジャニー氏の少年たちへの性加害を知っていたはず、
と思うのが自然です。
なのに黙っていた、諫めることもしなかったってことになる。
彼は新聞記者出身の作家・評論家だったのに。
日本社会はいつまで、この恥ずべき犯罪を黙認しているつもりだろうか。
いつまで「疑惑」というあいまいな言葉でにごしているつもりだろうか。
BBCの記者の驚きと嘆きと告発からメディアは逃げ、
「捕食者」とまで言われているのに、関係者は無言を貫いている。
国連の「ビジネスと人権」作業部会から、「異常極まりない状況」と糾弾され、
とうとう今月末から調査に乗り込まれる事態となった。
被害が発生してからすでに70年。
この国には自浄作用が全くなかったことが露呈した恥ずべき事態となった。
この件ばかりではない。被害者が男女や年齢を問わず、
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